CCS特集第2部:「ユーザー最前線」

旭化成工業、コンビケム/HTS統合システム化に成功

 1998.11.21−旭化成工業は、コンビナトリアルケミストリー/ハイスループットスクリーニング(HTS)技術の本格的な活用を図るため、新しい創薬支援システムを開発し、今年の1月から稼働させている。医薬品の研究開発に必要なすべてのデータベースを集約し、ロボットとの連動による高速スクリーニングと分析データの統合管理までを含めた包括的な機能を実現した。今回の開発・導入を推進したライフサイエンス総合研究所の林紘所長は「有機化学の研究道具は100年間ほとんど変わらなかったが、生化学の分野では新しいツールや新技術が次々に登場してきていた。とくに、コンビケムは有機化学の新技術として非常に有望で、ロボットを使ったHTSとともに創薬技術を大きく変えようとしている。これらを積極的に取り入れて新時代に対応するとともに、いかにうまく技術を組み合わせるかが肝心だ。また、こうした新技術は全員が理解し使えるようにしなければならない」と強調する。

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 旭化成では、5年前から医薬分野のコンピューターケミストリーの方向性を、数多くの化合物を効率的に取り扱うデータベースシステムの構築と運営にシフトさせてきた。林所長は、「1993年に久しぶりに研究所に戻り驚かされたのが、米国でのコンビケム/HTSブーム。創薬バイオベンチャーが次々と旗揚げした時期で、コンビケム技術のキャッチアップに世界中を奔走した」と当時を振り返る。研究所のトップ自ら技術導入やシステム構築に率先したのが、今回の成功のカギだったといえそうだ。

 新しい創薬システムの中核は、英オックスフォードモレキュラーグループ(OMG)のデータベース管理システム「RS3ディスカバリー」。実際には富士通との共同開発である。システム構築のポイントは、性質の違うデータをいかに統合管理するかということと、アッセイロボットとの緊密な連携機能をいかに実現するかということだったという。

 同システムは、社内に所有している化合物の構造・物性・在庫量・使用履歴などを厳密に管理するコーポレート化合物ライブラリーに加えて、発酵生産物ライブラリーとコンビ化合物ライブラリーの全部で3種類のデータベースを備える。

 微生物がつくる発酵生産物のライブラリーは、混合物から必要成分だけを単離して使用するという方式のため、構造情報がない。またコンビ化合物のライブラリーは96穴プレート上でつくられているため、必要なものは簡単につくり直せ、在庫管理の必要がない。ヒットの出た周辺でさらにライブラリーをつくると、同じ化合物が再度出現するので、通常のデータベースでは二重登録になってしまう。このように、コーポレートライブラリーとは性質の異なるデータを一元的に管理できる仕組みを自社開発で盛り込んだ。

 一方、HTSのデータ管理では、「ロボットがうまく働かない事例を分析して、HTSはロボット中心ではなく、むしろデータベース中心のシステムだと理解した。今回、コーディネートを富士通に依頼し、ソフトウエアを上位に置いてロボットとの連携機能を構築させたのが良かった」。ロボット(テカン社製)のバーコード管理機能と完全に連動した情報処理が可能になり、再入力なしでのデータ管理を実現している。

 導入の過程では、「新しい技術をめぐって社内で対立してはいけない。研究員全員にわからせることを目標に、ビジョンとポリシーを示し、一貫して教育を進めてきた」と林所長。

 コンビケム/HTSの導入により、情報量・化合物量・探索範囲が格段に広がり、有望なリード化合物の候補もすでにいくつか見つかりつつある。「思ったよりもヒットするという印象だ。この技術には強い手応えを感じている」とますます自信を深めている。