分子軌道計算でリード、最新IT環境に対応

米キューケム社:ピーター・ギル社長インタビュー

 1999.07.06−計算化学に携わる者にとって、昨年のノーベル化学賞をノースウエスタン大学のジョン・A・ポープル教授が受賞したことは、ソフト開発が学問的業績として高く評価されたという意味でも一つの“大事件”であった。そのポープル教授が現在、オーナー兼開発者として在席しているのが米キューケム社という耳慣れない企業。ポープル教授の直接の教え子だったピーター・ギル博士が93年に30才の若さで設立したベンダーだ。96年から独自の分子軌道法(MO)ソフト「Q-Chem」をリリースし、100ユーザーの実績を持っている。「医薬品開発や生化学、材料科学分野などで具体的な応用展開が可能になることにより、MO計算への関心はますます高まるだろう。最新のコンピューター環境に対応したQ-Chemで、多くの人にMO計算への道を開かせたい」と話すギル社長(ノッチンガム大学教授)に、開発の狙いや今後の戦略を聞いた。

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 ギル社長がQ-Chemのプログラムを書き始めたのは、ポープル教授のポスドク時代(カーネギー・メロン大学)の92年12月で、オーストラリアでのバカンス中のことだったという。ポープル教授が開発したMO計算の代表的ソフトであるGAUSSIANは68年ごろから開発が行われており、ギル社長も88年ごろからその作業に参加していた。

 「GAUSSIANは長年にわたって開発され、多数の機能が盛り込まれてきたために、いわば恐竜のように大きなソフトになってしまっていた。それに、70年代当時の古いコンピューター環境を前提にしてつくられており、今日のような大きなメモリー、大きなディスク、並列処理などの技術を生かしきれていない。それで、Q-Chemをつくろうと思った」とギル社長。GAUSSIANも歴史を重ね、現在では最新版のGAUSSIAN98がリリースされているが、先端のIT(情報技術)に追随していることやアルゴリズムの新しさで、5−6年は先行していると自信を示す。

 今年1月には、恩師のポープル教授を自分の会社に迎え入れることもできた。キューケム社のオーナー兼役員会メンバー兼ソフト開発者として働いていくことになる。ギル博士は、「先生のアイデアを新しいQ-Chemに反映させることで、今後20年間はMO分野で最先端の製品であり続けたい」という。

 一方、ビジネス面も軌道に乗り始めた。昨年6月に、やはりポープル教授ゆかりの加ハイパーキューブ社と開発・販売で提携。ハイパーキューブのパソコンCCS(コンピューターケミストリーシステム)環境と統合させた「Hyper-Q-Chem」を8月に発売する。「いままではUNIXだけだったが、ウィンドウズ市場は10倍以上だ。パソコンのグラフィックでQ-Chemが使えるようになるので、ユーザーが一気に増えると期待している」とギル社長。

 日本国内では、CCSで実績豊富なケイ・ジー・ティー(KGT)と販売契約を結んでいるが、その市場性を有望とみて、サポートにますます力を入れていく考えである。