マックワールド東京:スティーブ・ジョブズ基調講演

デジタルハブを担うマッキントッシュの新機能、オリジナルDVD制作など強調

 2001.02.23−米アップル・コンピュータのスティーブ・ジョブズCEOは22日、千葉県・幕張の幕張メッセで開催中の「マックワールド・カンファレンス&エクスポ東京」(24日まで開催)で基調講演を行った。珍しくダークカラーの背広姿で登場したジョブズCEOは、マッキントッシュの最新技術から最新製品、アップル社の抱くビジョンまでを満員のファンの前で熱く語った。3月24日から出荷開始される最新OS「Mac OS X(テン)」における新機能、新しい“デジタルライフスタイル時代”における“デジタルハブ”としてのマッキントッシュの役割がますます増大すると述べた。

 ジョブズCEOは、OS Xについての話しから切り出した。日本語版を3月24日から1万4,800円で出荷開始すること、マッキントッシュのプリインストールモデルは7月から提供することを明らかにした。

 OS X全体は、プラットホーム、グラフィックス、フレームワーク、ユーザーインターフェースの4つのレイヤーから構成されている。「ダーウィン」と名付けられたプラットホームはメモリーのクラッシュ保護、バーチャルメモリー、マルチタスク、マルチスレッド、SMP(シンメトリックマルチプロセッサー)などの機能を持ち、BSD(バークレー版UNIX)をベースにしてオープンソースの考え方にも対応した。

 グラフィックレイヤーは、独自の三次元エンジンを組み込んだ「クォーツ」、業界標準の「OpenGL」、OSに統合された「クイックタイム」の3つの機能を持つ。

 フレームワークレイヤーはアプリケーションプログラミングインターフェース(API)を定義しており、以前のOS9対応アプリケーションを動かすための「クラシック」(OS Xの新機能はサポートされない)、OS9アプリケーションをOS Xに対応させるための開発環境を提供する「カーボン」、OS Xの機能をフルに引き出すための「ココア」の3種類が用意されている。

 OS X用のアプリケーションは、すでに400社がコミットメントをしていること、1,200種類のソフトが開発中であり、「カーボン」「ココア」を利用した形で今年の夏をピークに秋までにはすべてが出揃うとした。

 4番目のレイヤーであるグラフィックユーザーインターフェースは、昨年の基調講演で初公開された「アクア」と称するもので、細かい点での操作性が改善されているほか、特殊でクールな日本語フォントをいくつかバンドルすることを約束した。フォントサイズをリアルタイムに可変させるデモンストレーションは会場の喝采を呼んだ。

 一方、ジョブズCEOは講演のなかでアップルのライバルとしてソニーおよびインテルを意識していることをあらわした。新型ノートパソコンの「パワーブックG4チタニウム」に関してソニーのVAIOとの比較を行い、15.2インチワイドスクリーン搭載でVAIOよりも画面が52%広いこと、厚さ26ミリメートルと3ミリメートル薄いこと、VAIOのマグネシウムよりもチタニウムが高級であること、バッテリー駆動時間が5時間でVAIOよりも2時間長いこと、DVD内蔵やワイヤレスネットワーク対応などVAIOにない機能を持つことなどを強調。わずかに価格はパワーブックG4チタニウムの方が10%ほど高いが、VAIOに外付けDVDを付け足すと同じ値段になると述べて、会場を大いに沸かせた。

 また、インテルの最新CPUであるペンティアム4に関しては、ペンティアム4のクロック周波数が1.5GHzに対して、G4が733MHzであることを認めたうえで、フォトショップ6を使って100MB以上の巨大画像ファイルを読み込む競走を実施。G4が24秒で処理を完了したのに対して、ペンティアム4が36秒かかることを証明。「コンピューターの速度は見かけのメガヘルツだけでは決まらない。ペンティアム4の基準で言えば、G4は2GHzだ」と豪語した。

 今回の基調講演での目玉の一つは、この場で初めて発表した最新グラフィックプロセッサー「GeFORCE3」といえる。グラフィックチップ最大手のnVIDIA社との共同開発契約に基づいて製品化されたもので、この新型チップはウィンドウズではなく初めてマッキントッシュ版が先に登場することになる。5,700万トランジスターを集積し、76GFLOPSの演算能力を誇っており、パワーマッキントッシュG4のBTOオプションとして3月末から提供を開始する。国内価格は6万8,000円になる。複雑な三次元空間とキャラクターをリアルタイムでレンダリングし、アニメーションを生成する性能があり、コンピューターゲームの表現力に革新をもたらすという。

 さて、講演の最高潮はジョブズの描くビジョンとDVD制作のデモンストレーションである。まず、ジョブズCEOはパソコンの進化が新たな段階を迎えていると述べ、1980年代から1990年代半ばまでの「生産性向上の時代」、1990年代後半からの「インターネットの時代」に続いて、2001年から「デジタルライフスタイルの時代」が幕を開けると宣言した。

 デジタルライフスタイルの時代には、すでに我々の生活に入り込んできているデジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯型音楽プレーヤー、DVDプレーヤーなどのデジタルデバイスが“デジタルハブ”を介してつながることで、その価値を何10倍にも高めるのだという。そのデジタルハブを担うのがマッキントッシュであるとし、CDからの音楽編集とオリジナルCDの制作、デジタルビデオ編集とオリジナルDVDの制作をデモンストレーションしてみせた。

 具体的には、新しいマッキントッシュにバンドルされる「iTunes」と「iDVD」という2製品。iTunesはCDの音楽データを簡単にMP3に変換し、CD-R/RWへの焼き込みを行うためのツール。同様のソフトはウィンドウズ上にもメディアプレーヤーやリアルプレーヤーなどがあるが、ジョブズCEOは使い方が難しく機能にも制限があると指摘。iTunesはCDからMP3形式で音楽を取り込む際に曲名やアーチスト名、アルバム名などを自動的にインデックス化してくれるため、1,000曲以上をランダムに取り込んでも聞きたい曲がすぐに探し出せると強調した。ドラッグ&ドロップでプレーリストをつくり、焼き込みボタンを押すだけでオリジナルCDの制作が簡単に行える。

 iDVDも簡単な操作でオリジナルのDVDを制作することができる。MPEG2形式へのエンコーディングは新開発のソフトウェアエンコーダーにより、それまではソースの25倍かかっていたエンコーディング時間(1時間のムービーファイルの変換に25時間かかる勘定)をソースの2倍にまで短縮した。そうして作成したムービーファイルをドラッグ&ドロップしたり、フォルダーをつくって写真データをコピーしたりする操作だけで、一般のDVDプレーヤーで操作可能なDVDのメニュー画面をつくり出すことができる。

 DVDを焼き込むためのDVD-Rドライブ搭載の「スーパードライブ」(CD-RWにも対応できる業界初のフルコンパチドライブ)は新型パワーマッキントッシュG4の最上位モデルに搭載されている。ジョブズCEOは「まさにこういうことがやりたかった。これからは世界中の人たちが自分だけのDVDコンテンツをつくって楽しむ時代になるだろう」と胸を張った。

 基調講演の最後に発表されたのは、iMacの新型機。人気のインディゴとグラファイトのほかにカラフルな花柄をあしらった「フラワーパワー」、青のバックに白い水玉のようなまだら模様が映える「ブルーダルメシアン」の2色が追加された。これらの柄はボディに印刷されたものではなく、あらかじめ柄を印刷したフィルムをボディのプラスチックシートと重ねてプレス成形で圧着したものと思われる。この新色は世界でも今回が初公開となり、最高の盛り上がりのうちに講演は幕を閉じた。