科学技術振興事業団が材料開発用高機能DBを正式公開

構造式検索、構造マッピングなど先進的機能を盛り込む

 2001.04.20−科学技術振興事業団(JST)は、5年ほど前から開発に取り組んできた新材料開発用のデータベース(DB)の正式公開を23日から開始する。高分子DB「PoLyInfo」、合金と無機物質DB「ポーリングファイル」の2種類があり、どちらもインターネットを介して無料で利用できる。単純なファクトDBではなく、高分子を構造式で検索することができたり、合金などの結晶構造やX線回折パターン、状態図や構造マップを作成・表示したりするなど、視覚的な機能を備えていることが特徴。一般的なブラウザーソフトだけでこれらの高機能性を駆使できるほか、英語をベースに日本語も利用できるようになっているため、海外にも本格的に門戸を開いたユニークな国産DBとして国際的な反響も予想される。

 インターネットのURLは、高分子DBのPoLyInfoが「http://triton.tokyo.jst.go.jp」、合金と金属間化合物、無機化合物の基礎DBであるポーリングファイルが「http://lpfb.jst.go.jp」となっている。

 PoLyInfoは、ポリマーの物性データと化学構造、IUPACなどの名称、測定サンプルの成形方法、測定条件、原料モノマー、重合方法など、高分子材料設計に必要な各種データを相互に関連づけ、体系的に整備している。物性項目は、熱的性質、電気的性質、機械的性質など約100種類を収録対象としており、現時点で約5,000種類のポリマーと候補モノマー、約1万8,000の物性ポイントを蓄積した。現在はホモポリマーのデータだけだが、10月にはコポリマーのDBも追加する予定。

 情報のソースは1930年以降の学術文献で、公開中のものは1980年までの情報を収録している。すでに、1996年くらいまでのデータを整備しており、2−3年後にはほぼリアルタイムに追い付くのではないかという。半年に1回のペースでデータを更新し追加していく。

 また、研究者に使いやすくつくられているのが特徴で、詳細な条件指定ができるエキスパート向けの“アドバンスドサーチ”と、代表的な項目を指定するだけの“ベーシックサーチ”を用意した。後者の場合は、オレフィン系で、熱的性質、とくにガラス転移温度の高いものを知りたいなど、選択肢を順番に選んでいくだけで簡単に検索が行える。

 部分構造検索については、含まれる部分構造をメニューから選択する方式に加え、ポリマー用作図ソフトを使って任意の構造を描画できるようにする。作図ソフトは専用のものを開発しており、Javaアプレットの形でユーザー側のパソコンなどにダウンロードさせる仕組み。7月に提供する予定だ。

 将来的には、DB検索を補完する機能として、原子団寄与法などの手法を用いて未知ポリマーの物性を予測できる計算機能を組み込む計画。2003年度には実現する。

 一方、合金・無機DBは、基礎的なファクトデータを網羅した「基礎DB」、機械設計を行う際に利用できる拡散や照射、クリープ/疲労、引っ張り/衝撃などの現象におけるデータを集めた「エンジニアリングDB」、スーパーコンピューターの第一原理計算で求めた電子構造情報を集めた「計算物性DB」−の大きく3つのDBから構成される。今回はその中から基礎DBをポーリングファイルの名称で正式公開することになった。スイスのマテリアルフェーズデータシステム(MPDS)社との共同事業として開発を進めてきたもので、サービス開始は少し遅れて4月末を予定している。

 合金と無機化合物の二元系(2種類の元素から構成される材料)データを集めており、1900年以降の学術雑誌1,000誌を調査し、結晶構造および回折パターンをそれぞれ約2万7,000件、物性約4万件、状態図約8,000件を書誌的データとともに収録、各データがリンクしていて横断的な検索が行える。

 結晶構造は、代表的な分子グラフィックソフトで三次元表示を行うことができるほか、状態図はSVG(スケーラブル・ベクトル・グラフィックス)形式の画像データとして扱われるため、画像品質を落とさずに細かく見たい部分を大きく拡大して確認することが可能。

 さらに、ポーリングファイルは材料設計ツールとしての機能を提供できることが最大の特徴となっている。膨大な収録データをもとに統計的な解析を行うほか、Pettifor MapやQuantum Structure Diagram(QSD)、Quantum Formation Diagram(QFD)といった構造マッピング機能を利用することにより、結晶構造や物性などの観点で物質の相関性を探ることができる。あらかじめ結晶構造と超伝導転移温度、融点を要素にしたマッピングが施されている。それを見るだけでも重要な知識が得られることもあるが、ユーザーが手持ちのデータをそのマップのなかに反映させて表示させることもできる。

 二元系のデータは今回のものでほぼ網羅されており、今後は多元系のデータのサポートに取り組んでいく。また、開発中の計算物性DBやエンジニアリングDB(まずは拡散DB)も試験公開中(http://atlas.tokyo.jst.go.jp)である。

 今回のPoLyInfoもポーリングファイルも国の予算でつくられているDBであるが、DBは中身が常に更新されて長く継続されることによってはじめて信頼性を得て広く使われるようになる。その意味では関係各方面の継続的な努力に期待がかかる。