CCS特集第1部:業界動向

バイオインフォマティクス分野を中心に再編が進む

 2001.11.30−新薬や新材料の開発を支援するコンピューターケミストリーシステム(CCS)は、計算化学/分子モデリング、ケムインフォマティクス、バイオインフォマティクスの大きく3分野のシステム群から構成されており、R&Dを進めるうえで不可欠のツールとして順調に市場が拡大してきた。現在は医薬分野のアプリケーションが中心となっているが、3分野のシステム統合を見据えた動きが徐々にあらわれてきているのが現状。それにともない、ベンダー同士の合併や提携がさらに活発化しはじめている。システムは大半が海外の製品で、それらの代理店となっている国内のベンダーにも具体的な影響が及び、再編を加速する事態となりつつある。

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 CCSは、計算化学的アプローチにより原子・分子レベルで機能や特性を制御した“設計”を目指す「計算化学/分子モデリング」、化合物に関連する多様な情報を統合的に管理し、さまざまなリンクとデータアクセスを提供する「ケムインフォマティクス」、ゲノムなどの大量の生物学的情報を駆使し、コンピューターによるデータ解析を通して有用な情報を探り出そうとする「バイオインフォマティクス」−といったシステム群に分類される。

 最近の主なターゲットは新薬開発であり、それに合わせて3分野のシステムが新しい展開をみせ始めている。それに合わせて、この1年にベンダー間の再編が一段と進んだ。(最新CCS世界地図を参照)

 今年最大の話題は、新生「アクセルリス」の発足であろう。ここ数年間にわたって精力的にCCSベンダーの買収を繰り返してきた米ファーマコピアがソフトウエア事業部門を統合し別会社化したもの。1998年2月に買収した米モレキュラーシミュレーションズ(MSI)を中心に、昨年4月に買収した英シノプシス、同8月に買収した英オックスフォードモレキュラーグループ(OMG)、OMGの傘下だった米ジェネティックコンピューターグループ(GCG)−の主要4社が中心となり、CCSの3分野を網羅できる包括的ベンダーとしての活動を今年6月から開始した。その後、さらに英シノミクスを買収し、コンサルティングサービス事業を強化している。

 国内にはそれぞれのベンダーの代理店網が展開していたが、アクセルリス発足を機に代理店戦略が見直され、分子モデリングは菱化システム、ケムインフォマティクスは富士通、バイオインフォマティクスは三井情報開発が販売元となるという体制に変更された。これにともない、6月いっぱいで旧MSI製品の販売からケイ・ジー・ティー(KGT)が、9月いっぱいで旧シノプシス製品の販売から住商エレクトロニクスが撤退した。両方の製品の一部を扱っていたエルエイシステムズも販売を取りやめた。

 アクセルリスは現在、個々にばらばらだった製品体系の一新を進めており、全製品が共通のプラットホーム上で動作できるようにするとともに、システム間連携による新たなるソリューション開発も行ってきている。総合力で一歩リードしている同社の今後の製品戦略が注目されるところだ。

 一方、ケムインフォマティクスのトップベンダーである米MDLインフォメーションシステムズと、バイオインフォマティクスの最大手である独ライオンバイオサイエンスも活発な動きをみせている。

 MDLは学術出版大手のエルゼビアサイエンスグループに所属しているが、親会社が今年8月に学術出版社のハートコートを買収、その傘下にあった米サイビジョンをMDLの組織に組み入れることになった。毒物データベースやQSAR(構造活性相関)ツールなどの製品を有しており、MDLのデータマイニング技術との統合が計画されている。

 MDLのソリューションの狙いは、新薬の研究に必要なあらゆる化合物情報へのユニバーサルなアクセスで、そのために関連文献を直接参照できる「LitLink」、複数のデータベースの横断的な検索を可能にする「コンパウンドウェアハウス」などの技術を確立してきている。

 MDLがカバーしているのは、薬物側の物理化学的情報、生理活性などの生物学的情報だが、遺伝子やたん白質などの生体側の情報を扱う大手ベンダーが独ライオンである。ライオンは、昨年2月に米トライポスに出資したのに続き、今年3月には米トレガバイオサイエンスを買収、8月にはMDLと戦略提携を結んだ。

 ライオンがトライポスやMDLと提携する狙いは、バイオインフォとケムインフォを統合した新しい創薬支援ソリューションを確立することにある。ゲノム、プロテオームの解析が進み、医薬ターゲットとなるたん白質がどんどん特定できるようになれば、それを受容体とした薬物設計を行うことができるようになってくると考えられる。そうなれば、化合物情報と生体側の情報とを一元管理する需要が出てくるとの読みだろう。

 統合システムのイメージはまだ具体的ではないが、今回ライオンはMDLの主要製品群のほとんどを社内に導入し、内部での創薬プロジェクトに活用するほか、自社のバイオインフォ製品群とのインターフェースを開発し、統合インフォマティクスソリューションに仕上げていく計画だとみられる。

 一方、国内のCCSベンダーはバイオインフォ市場を中心にした大きなうねりの真っ只中にある。先行する富士通、日立製作所に対して、NEC、日本IBMも専門部隊を旗揚げし、コンパックやサン・マイクロシステムズ、日本オラクルも含めて大手ベンダーの主戦場になりつつある。旧来からのCCSベンダーもソフトウエア技術を中心に負けてはいない(バイオインフォ市場の動向はCCS特集第3部を参照)。

 また、コンビナトリアルケミストリー技術のブームの引き継ぐ形でADME(吸収・分布・代謝・排出)予測システムに関する関心が急激に高まりつつあり、多くのベンダーが戦略を強化してきている。(ADME市場の動向はCCS特集第2部を参照)