富士通が理化学研究所ゲノム科学総合研究センターと共同研究を開始

遺伝子機能ネットワーク解明へ、DB構築と推論ソフト開発

 2002.06.14−富士通は13日、バイオインフォマティクス分野で理化学研究所ゲノム科学総合研究センター(GSC)との間で共同研究を開始したと発表した。遺伝子同士の関係を網羅的に調べ、“遺伝子機能ネットワーク”を解明するためのデータベース(DB)と推論システムを開発する。まずは、全ゲノムの解読が終了しているイースト菌やシロイヌナズナを対象に来年3月末まで研究を進める。富士通ではコンテンツを中心とした共同研究の成果を、早ければ2年以内に商用化する計画だ。

 今回の富士通と理研GSCの共同研究は、富士通がビジネスとして受注したものではなく、純粋な研究プロジェクトとなっている。期間は1年間だが、成果が双方に満足いくものであれば、年度ごとに継続を考慮する予定。

 プロジェクトでは、富士通が世界中の文献情報や実験情報などの公開DBのなかから、文献検索およびテキストマイニング技術を駆使してオルソログ(他の生物種における同一機能を有する遺伝子群との対応関係)や、たん白質の相互作用を解析するための2-Hybrid(ツーハイブリッド)法などに関する情報を集め、遺伝子機能ネットワークのための専用DBを構築。さらに、人工知能(AI)/エキスパートシステム(ES)技術を利用して、遺伝子の関連性を推論するソフトウエアをつくり上げていく。一方のGSCは、開発に当たっての要望や学術的なアドバイスを行い、システムを実際に利用してそれを評価し、内部の研究に役立てていく。

 DBおよびシステムは、富士通の科学技術系ポータルサービスである「ネットラボラトリー・ドットコム」のリソースを利用して構築し、GSCの研究者はブラウザーベースでシステムにアクセスすることが可能。富士通としては、商用化に向けたインフラづくりや、具体的なビジネスモデルの検討も同時に進めていく予定である。

 今回の共同研究の具体的な目標は、まず遺伝子間の関係性を推論するためのDBを構築すること。これが、病気の原因遺伝子や創薬ターゲットの推定に有用な情報を抽出し、蓄積する手法の開発につながる。2番目は遺伝子間の関係性を推論するシステムの開発で、関連性の高い候補から順にランキングする手法なども確立していく。3つ目はさまざまな種類の情報の効果的な表現手法の研究。こうしたシステムから研究者が新たな知識を発見するために、どのような形式で情報を表現するべきなのかを探っていく。

 ただ、今回の共同研究は、まずはイースト菌やシロイヌナズナを対象に遺伝子機能ネットワーク解明のためのシステムづくりを行うもので、直接にゲノム創薬などに結びつけることが目的ではない。対象も特定の遺伝子ではなく、全ネットワークを網羅的に扱うことを目指している。とはいえ、その過程で得たノウハウはターゲットを明確にしたゲノム創薬プロジェクト推進でも有効な武器になる。富士通としては、そうした長期的なバイオインフォマティクス事業戦略の観点から今回の共同研究に踏み切ったものとみられる。