豊橋技科大・船津助教授らのグループが化学反応予測システムを開発

化学構造から生じ得るすべての反応と副生成物の可能性を網羅

 2002.04.13−豊橋技術科学大学の船津公人助教授と三井化学マテリアルサイエンス研究所計算科学室らの研究グループは、任意の化学反応による生成物を網羅的に予測するシステムを開発した。既知の反応情報データ数万件を利用して化学反応のルールを導き出し、それをもとにした知識ベースを活用して副生成物の可能性をすべて洗い出すことができる。限定的な条件下での予測では外国で数件の研究事例があるが、今回のように分子構造からどんな生成物でも導き出すシステムは例がない。化学反応をデザインするに当たっては、レスポンシブルケアの観点からも副生物を知ることは重要であり、今回のシステムは広く注目を集めそうだ。

 豊橋技術科学大学の船津助教授らのグループは、目的の化合物を得るための合成経路設計を自動化するシステム開発を長年進めてきており、すでに「AIPHOS」「KOSP」「TOSP」といったシステムを完成させている。反応の1段階前の化合物にさかのぼることによって合成経路を導き出す“逆合成”の考え方に基づいたシステムである。ただ、提示された合成経路で他にどんな副生成物が生じる可能性があるのかを知りたいというニーズが出てきて、2000年春から開発に入っていた。

 今回のシステムは、出発物質の化学構造を入力すると、構造のなかで化学反応に関係しそうな部位(化学結合のどこが切断されるパターンがあるか)をみつけ出し、知識ベースのなかの部分構造変化情報(出発物質の特定の構造が生成物の構造のどこに反映されているか)を参照することで、出発物質からスタートする可能性のあるすべての反応/副反応を洗い出し、そのすべての生成物と反応条件を示してくれる。合成研究者がこれらの情報を得ることにより、実際に目的化合物を合成する際にどんな副生成物が生じそうかを、かなりの程度まで判断できるという。専用のグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)ソフトも用意されているので、使い方もわかりやすい。

 反応/副反応、生成物/副生物の具体的なスキームがわかれば、計算化学的な手法で遷移状態を予測して反応場の設計に移行したり、不都合な副生物が生じないように触媒を工夫したりするなどの別の角度からのアプローチにも発展させることが可能だ。

 とくに、今回のシステムでは、起こる可能性のある反応をすべて予測するために“逆合成”の考え方を応用している。実際に、知識ベースはAIPHOSおよびKOSPのものと共通である。合成経路をさかのぼるAIPHOSと比べると、予測のエンジンを逆方向に駆動させることになるが、「最初から逆合成と順合成の両方に使えるように知識の記述法や抽出法を工夫しておいた」(船津助教授)のだという。

 知識ベース自体も、市販の反応データベースから自動的に知識を誘導する機能を持たせており、ユーザーが自分の研究所内の反応データを組み込んでいくことも容易。今回のシステムとAIPHOSなどを組み合わせて利用すれば、有機合成研究の強力な武器になると期待される。

 なお、海外の研究事例では、ジョーゲンセンのCAMEOやガスタイガーのEROSといったシステムもあるが、どちらも反応機構を固定したり限定したりして生成物を予測する。このため、構造式だけからさまざまな反応/副反応を予測する今回のシステムとは大きな開きがあるようだ。