アクセルリスがバーチャルスクリーニングのための新コンソーシアム

HTSデータマイニングを含む総合システム、帝人が第一号メンバーとして加入

 2002.07.31−アクセルリスは、創薬支援のためのコンピューターケミストリーシステム(CCS)開発を目指す「ナレッジドリブンディスカバリーコンソーシアム」(略称・KDD)を6月末から新たにスタートさせた。特定の顧客をスポンサーメンバーとして募り、先鋭的なソフトウエアをつくり上げるプロジェクトで、メンバーは開発成果を早期に利用できるなどのメリットがある。今回のKDDコンソーシアムは、インシリコでのバーチャルスクリーニングをターゲットにしており、第1号メンバーとして帝人が加入した。最終的には20社以上の参加を見込んでいる。

 KDDコンソーシアムは、今年の6月末まで6年間にわたって継続された「コンビナトリアルケミストリーコンソーシアム」のあとを受けて内容を発展させたもの。デュポン、モンサント、ファイザー、ベーリンガーインゲルハイム、BASF、FMC、ファルマシア&アップジョン、ミレニアム、アストラ、アムジェン、帝人など20社が加入していた。

 帝人が一番手として引き続いての参加を決めたが、さらに複数の欧米製薬およびバイオベンチャーが契約署名の最終段階にあるという。正式なキックオフミーティングは夏にポルトガルのリスボンで行われる予定。アクセルリスでは、新メンバーの参加とともに、日本企業からも関心が高まることを期待している。費用は3年間で5,300万円。

 前回のコンビケムコンソーシアムでは、投資に対する回収が2倍(後に製品化された際の2倍の金額に相当するソフトを入手できた)、開発したソフトへの早期アクセス、ソフト開発の優先順位に対する方向付け、特別なトレーニングとサポートを通した技術移転、学術アドバイザーチームとの情報交換−などの利益をメンバーが享受したという。

 さて、今回のコンソーシアムでは、バーチャルスクリーン(ふるい)のためのナレッジベースと、バーチャル化合物のためのナレッジベースを構築し、その二つを合わせてバーチャルスクリーニングにかけ、具体的な薬物候補化合物を効率的に絞り込んでいくための総合的なシステム開発を行う。

 “ふるい”を作成するうえで重要なのがハイスループットスクリーニング(HTS)からのデータマイニングである。HTS技術の進歩により、例えばファイザーでは今年1年間で1億5,000万のデータポイントを生成する予定で、またGSKは最新の1,536ウェル技術を用いることで一度に1,000万のデータポイントを得ることができているという。アクセルリスの親会社のファーマコピアも320万化合物を2ヵ月間でアッセイにかける技術を持っている。しかし、このように蓄積された膨大なデータのなかから意味のある知識を掘り起こすのが問題。

 とくに、弱いヒット(活性)が多く得られるようなケースをどう扱うかがカギになるという。基本的にはディスクリプター(記述子)で構造を特徴づけ、それが活性値とどう関係しているかという相関式を導き出すが、古典的なQSAR(構造活性相関)が活性値の良好な100−200の化合物群を用いるのに対し、今回は活性があったりなかったり強かったり弱かったり、さらには構造のバリエーションも豊富な1,000から1万の単位の化合物群から法則性を引き出すための堅牢なモデルを構築することを目標としており、手法としてはかなり先進的なものとなるようだ。

 複数のモデルを組み合わせて利用することも検討しているが、すでにコンビケムコンソーシアムで開発した“マルチY法”など特許出願中の新規性の高いアルゴリズムも擁しており、これらも発展させていく。また、さまざまな系に通用する汎用性の高い予測手法の確立、現実的な時間で結果が得られる高速なアルゴリズム開発なども視野に入れていく。

 ターゲットたん白質側の構造情報は、X線結晶解析データおよびホモロジーモデリング手法によって取得し、これを合わせることで“ふるい”のためのナレッジベースを完成させる。

 一方、“ふるい”にかけるための化合物群もバーチャルライブラリーとして用意されるが、実際に合成できる現実的な化合物でなければならないため、合成/逆合成などの化学反応に関するナレッジ、入手できる試薬情報などを加味して大量のライブラリーをつくり上げる。例えば、ファイザーではターゲットたん白質の良い構造情報を持っていたにもかかわらず、75%のケースでふさわしいリード化合物を発見できなかったという事例がある。これは、化合物ライブラリーの絶対量の不足が原因だとされており、ファイザーでは2003年までに300万化合物を新規にそろえることで成功確立を50%にまで向上させる計画だ。

 とくに日本企業ではこのような大量の化合物を用意するのは困難な場合が多いが、KDDコンソーシアムのバーチャルライブラリーを利用すれば欧米の大手と同じレベルでの新薬開発が可能になるという。スクリーニングはインシリコ(コンピューター上)だが、合成可能なライブラリーが集められているので、有望な候補がみつかったら、すぐに合成して実験に入ることができる。研究開発の確度と速度を大幅に高めることにつながる。