英ダウエント:ピーター・マッカイ社長インタビュー

化学・製薬向け特許情報DBサービス、ウェブ版への取り組みを強化

 2002.07.16−世界最大の特許情報サービスプロバイダーである英ダウエントインフォメーションは、日本の化学・製薬・バイオ産業に向けた事業戦略を強化する。特許の専門家ではない一般の研究者がウェブベースで簡単にアクセスできるデータベース(DB)サービスを開始し、研究開発(R&D)において特許情報を活用することの有用性を訴えていく。ピーター・マッカイ社長は「日本市場においては、ダウエントの情報の価値がまだ十分に認識されていない。21世紀のR&D競争を勝ち抜くために特許をより深く調査することは非常に重要だ。当社が最良の情報パートナーとなり、日本の顧客を成功に導きたい」と述べる。

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 ダウエントは、カナダを拠点とする総合情報プロバイダーであるトムソングループの1社。主に科学技術文献情報を提供する米ISIとともにトムソンサイエンティフィックグループを構成している。ダウエント自身の設立は1951年と古く、1959年から日本でのサービスも開始している。世界40ヵ国以上の特許当局から科学技術分野を中心にしたすべての特許情報を収集し、独自の視点から世界最大級の特許DBを構築。これは、ダウエントワールドパテントインデックス(WPI)と呼ばれ、1,000万件を超える発明と2,000万件を超える特許を収録しており、1年間に80回以上の頻度でアップデートを行っているという。同社は、このWPIをベースにさまざまな製品やサービスを提供しているわけだ。

 日米欧の企業における特許戦略の違いについてマッカイ社長は「米国と日本は国内市場が大きいため特許戦略も国内重視だが、英国企業はもともと自国の市場の小ささから外国で特許出願することに熱心だった。しかし、近年は特許戦略もグローバル化しており、国際的な特許DBに基づく当社のサービスが真価を発揮できる環境になったと思う。とくに、製薬・バイオなどのライフサイエンス分野では深い特許検索が重要だ。例えば、欧米の大手製薬会社には特許担当者が日本の製薬会社の数倍から10倍くらいいる。ダウエントの特許情報は深い階層までインデックス化していることが特徴で、ダウエントの情報を生かすことによって欧米と同じレベルで特許情報を戦略的に活用することが可能になる」と強調する。

 また、同社では、特許の専門家ではなく、一般の研究者が特許情報にアクセスすることでR&Dの大幅な効率化を実現するソリューションを紹介しはじめた。ウェブ技術を使うことによって高い操作性を実現しているが、国内には機密保持の観点からウェブ版を敬遠するユーザーも多い。「日本企業がウェブに対する強い警戒感を持っていることはわれわれも感じており、そのことで特許情報の活用に遅れが出はしまいかと心配もしている」とマッカイ社長。

 「例えば、当社はすでにウェブ版の製薬向け特許・文献DBサービス“ダウエントディスカバリー”を提供しているが、米国では製薬大手の50%が導入しているのに対し、日本ではトップ企業の20%にとどまっている。米国企業はウェブ版への不安は少ない。日本企業は検索式がもれる可能性があることに神経質になっているが、実のところ検索式そのものの機密性は低い。何を検索したかというよりも、重要なのは検索した情報をどう使ったかだ。また、新たに提供するゲノム配列特許DBサービスである“GENESEQ オンザウェブ”は独ライオン・バイオサイエンスのプラットホーム上で運用されており、SSL/暗号化技術を利用したセキュアなシステムを実現した。安心して使ってもらえる」という。

 このGENESEQ オンザウェブは、核酸・アミノ酸に関する配列情報を包括的に集めたもので、特許数で5万件以上、配列数で約240万のデータを収録している。すべてのDBを社内に持たせるインハウス版として世界中の製薬・バイオ企業に普及しているもののウェブ版に当たる。マッカイ社長は「個々の研究者が個人の情報ツールとして活用することを想定して開発した。企業レベルの意思決定を左右するのはインハウス版のGENESEQが最適だが、企業内にはたくさんの研究者がおり、彼らも日々それぞれのレベルで多くの意思決定を下さなければならない。そうした日常的な支援ツールが今回のオンザウェブだ」と説明する。世界で1万社をターゲットに販売活動を開始しており、2,000社への導入を見込んでいる。「この製品にはかなり大きな期待を持っている」という。

 ダウエントにとって、日本は古くからの市場であり、全社的な売り上げ比率でも欧州に次いで第2位の位置にある。マッカイ社長は「ライフサイエンスの競争はますます激化し、技術は複雑さを増していく。今後、われわれが情報パートナーとして日本の顧客との関係を深め、国際市場における顧客の成功に寄与していきたい」と締めくくった。