日立製作所:ライフサイエンス推進事業部・川越センター

民間で国内2位の遺伝子解析センター、受託研究のトータルソリューション提供

 2002.08.15−日立製作所は、1999年10月に当時11番目の社内カンパニーとしてライフサイエンス推進事業部を設立、バイオ関連事業を展開してきた。現在、日米の大手コンピューターベンダーのほとんどがライフサイエンス市場に対して何らかの取り組みを行うようになってきているが、ハードやソフトを販売しようというのではなく、“ウェット系”の受託サービスを中心に据える同社は、他社とは一線を画したアプローチが目立つ。製薬会社の元研究所を利用した専門の事業拠点(埼玉県川越市)を訪問し、今後の戦略などを聞いた。

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 日立製作所ライフサイエンス推進事業部のサービスメニューは、DNA塩基配列解析サービス、遺伝子多型解析サービス、遺伝子発現解析サービス、たん白質機能解析サービス、バイオインフォマティクス支援サービスなどに分かれている。当初はシステムインテグレーション(SI)やソフトウエア販売などのコンピューターベンダーらしい事業も多かったが、最近ではそれらの比率は下がり、いまでは完全にサービス主体の事業になっているという。

 発足時の計画によると、売り上げ目標は2002年に150億円、2010年に2,000億円。人員計画は、スタートの約50名から2002年には200名に増員するとなっていた。現在も当初の5ヶ年計画を遂行中だが、市場の成長率が予想ほどではなく、売り上げも年々伸びてはいるものの計画には未達となっているようだ。人員も現時点では90名にとどまっている。

 このため、サービス対象を民間主体に切り替えるとともに、個別サービスからトータルソリューションサービスへの発展を志向。新戦略での事業拡大をあらためて目指していく方針だ。

 その重要な拠点が埼玉・川越のセンターである。この建物はもともと医薬品会社の研究所だったもので、バイオ研究に適したインフラを備えている。全体は地上6階建てだが、実際に使われているのは1階から5階まで。

 5階は遺伝子クローニングと塩基配列の解析のためのフロアで、ABI-PRISM3700などのオートシーケンサーが13台稼働している。民間の施設では国内第2位の規模の解析センターだという。ショットガン法やプライマーウォーキング法などを利用し、1日に350万塩基対の大量解析能力がある。

 4階は遺伝子多型解析とDNAチップ/マイクロアレイによる発現解析を行う設備が並んでいる。電気泳動をベースにした高精度SSCP(Single Strand Conformation Polymorphism)装置(日立電子エンジニアリングから製品化されている)が11台、質量分析を利用した高速多型解析用のマスアレイ装置が1台導入されている。これは、米シーケノム社からの技術導入で作製した装置で、大規模なSNPタイピングが可能。

 また、DNAチップ/マイクロアレイに関しては、設計用のソフトも自社開発しており、チップ製作から解析までを一貫して行える体制を敷いている。スポッターは日立ソフトウェアエンジニアリング製だが、最近ではオリゴチップへの対応も行っており、こちらは設計だけを内部で行い、製作は外注となっている。

 3階は共通実験室で、プロトコルの決まっていない実験などが行えるようになっており、テーマごとやプロジェクト単位で使用されている。次いで、2階が情報系のフロアとなる。いわゆるドライ系の技術者は全体の研究スタッフの4分の1ほどで、ウェット系のグループと一緒になって仕事をするケースがほとんどだという。このフロアにはマシンルームもあり、サン・マイクロシステムズの大型サーバーであるスターファイアーをはじめとして、各種のUNIXマシンやPCサーバーが多数設置されている。メーカーにこだわらず最適な機種を選定しているが、ストレージシステムは日立製だということだ。

 最後に、一階ではたん白質関係の研究が行われている。米ミリアド社との技術提携により、酵母ツーハイブリッド法を用いたたん白質間の相互作用ネットワーク解析サービスを提供している。すでに社内には500万のたん白質ライブラリーが整備されており、年単位の契約になるが商用サービスの実績は豊富だ。

 また、1階にはハイスループットリガンドスクリーニングシステムも設置されている。これは、自動遺伝子導入装置と自動電気生理計測装置から構成されており、まずカエルの卵に遺伝子を導入してその表面に標的分子を発現させ、そこにリガンド候補物質を反応させて電気的応答を検出することで相互作用を判定する仕組み。これを応用して膜たん白質の機能解析にも役立てることができるという。

 これらの一連の設備を活用し、バイオ実験および大量データ解析のノウハウを用いて高度な受託研究サービスを提供するのが同社の基本的な事業戦略である。これまでは、個々のサービス単位のプロジェクトが多かったが、今後は顧客から具体的な研究課題を提示してもらってそれを総合的に解決するようなトータルソリューション型の受託サービスを増やしていきたい考え。広範な自社技術の蓄積を生かすとともに、すでに行ってきたように外部からの技術導入も積極的に実施することで、さまざまな研究ニーズに応えていく。すでにいくつかの実施中のプロジェクトもあり、かなりの手応えを感じているようだ。