日本総合研究所が土井プロ・OCTAの商用化プロジェクト始動

解析シナリオ機能など追加、予約購入受け付けを開始

 2002.08.29−日本総合研究所は、今年の3月末まで経済産業省プロジェクトで開発された高分子材料設計支援システム「OCTA」の商用化プロジェクトを正式にスタートした。実際的なコンサルティングサービスも合わせて提供する予定で、2005年3月の完成を目指し、予約販売という形で協賛企業を募って開発を進めていく。予約者は、1年ごとにリリースされる開発成果を順次利用できるほか、意見や要望を提出することも可能。予約価格は完成時の定価の30%引きであり、メリットが大きい。OCTAは、従来の計算理論では解析できなかった高分子のメソ領域をシミュレーションするための統合システムで、世界的にみてもユニークな機能を多数備えている。長く低迷している国産コンピューターケミストリーシステム(CCS)開発の現状を打破する旗手としても期待されており、今回の商用化の行方が注目される。

 OCTAは、大学連携型プロジェクト「高機能材料設計プラットホーム」(通称・土井プロジェクト)として、名古屋大学の土井正男教授のもとに日本総合研究所を含む民間企業11社からの研究員が集まって開発を進めた。高分子のメソ領域をシミュレーションする4種類の計算エンジン(粗視化分子動力学のCOGNAC、レオロジーシミュレーターPASTA、動的平均場法のSUSHI、多相構造/分散構造シミュレーターMUFFIN)と、それらを統合するプラットホーム「GOURMET」から構成されており、フリー版は専用サイト(http://octa.jp)からダウンロードできる。

 今回、日本総合研究所が開発するのはフリー版OCTAをベースにした商用版の「J-OCTA」(商品名)。基本的に計算エンジンのコア部分はオープンソース方式で育成する計画であるため、エンジンは両者で共通となる。そこで、J-OCTAでは、モデリングツールなどのエンジンのユーティリティ機能を付加するとともに、プラットホームモジュールを「J-GOURMET」という形で大幅に強化していく予定だ。(別図および別表参照)

 具体的には、フリー版GOURMETで採用している入出力ファイル“UDF”をテキスト形式からバイナリーに変更し、処理の高速化を図る。これにより、データ処理速度が数倍から100倍に、画像描画速度も数10倍に高まるという。また、グリッドコンピューティング技術を盛り込み、分散型並列処理で大規模計算を短時間で実行できる環境を実現する。

 とくに、新機能の目玉の一つが解析シナリオ機能。OCTAの最大の特徴であるシームレスズーミングなど、計算エンジンを協調させて複合的なメソ領域を解析する際に威力を発揮する。もともとOCTAが対象にしているメソ領域は時間・空間的に広大で、しかもレイヤーごとに専門性が高く、複数のエンジンを使いこなすにはかなりのノウハウを要する。しかし、シナリオ機能によって複雑な解析の手順がナビゲーションされるため、実証済みのシナリオをテンプレートとして利用すれば、研究実務を大幅に効率化することが可能。各エンジンの典型的な利用法のテンプレートや、土井プロジェクトに関連して行われたポリプロピレン/エラストマーブレンドに関連した“AMUSEプロジェクト”のほか、非相溶高分子混合系の電気粘性効果、ポリマーブレンド材料の弾性率計算、トポロジカルゲルの力学物性、など20例近い適用研究事例をシナリオ集にまとめあげていく。

 さらに、OCTAでは解析エンジンのパラメーターセットが提供されていないなどの問題があるため、さまざまなケースでの解析条件や解析結果などの事例を集め、データベース化してパラメーターセットを作成していく計画である。

 計算エンジンをサポートするモデリングツールでは、とくに解析のためのスケール変換を支援するモデラー群を用意する予定。例えば、求める物性から多相構造へ、多相構造から粗視化粒子へ、粗視化粒子から原子レベルへとモデルをズームインさせるツールを開発する。NASTRAN、GAUSSIAN、MOPACなどの外部計算プログラムとのインターフェースも用意する。

 さて、J-OCTAの開発プロジェクトだが、協賛企業を集めて開発資金を得つつ、3年計画で2005年3月の完成を目指していく。このため、予約という形での販売活動を本格的に開始した。ユーザーになれば、来年3月のアルファ版、2004年3月のベータ版を早期入手できるほか、意見や要望を開発に反映させることも可能。また、予約特典として完成時の定価の30%引きでシステムを購入できる。価格は、各計算エンジンがサイトライセンスで70万円、J-GOURMETがプロセッサー当たり70万円となっている。また、オプションとして開発中の粗視化高分子モデラーがサイトライセンスで70万円。サポート料金はそれぞれの15%となる。3年間にわたる分割支払いも可能。完成版の発売後はこれらがすべて100万円となり、サポート料金も20%になる。予約注文は2004年3月まで受け付ける。

 ただ、OCTA自体が斬新なこともあって現時点で有用性の判断がつきにくいという声もあるため、今年度はプロジェクト成果として無償公開されているフリー版OCTAの有償サポートビジネスや、さらにはユーザーの具体的な開発テーマに踏み込んだコンサルティングサービスに力を入れ、それによる評価を経て、次年度以降のJ-OCTAの予約購入に向けた需要の掘り起こしを進めていく考え。フリー版OCTAのサポート料金は、予約販売に対応した15%の費用で請け負っていく。

 なお、セミナー・説明会の予定などを含めた最新情報は以下のサイト(http://www.jri.co.jp/pro-eng/j-octa/)から入手できる。

  フリー版OCTAとJ-OCTAの機能比較  
      機能項目 フリー版OCTA(GOURMET) J-OCTA(J-GOURMET) 備考
GOURMETの特徴 多様なデータモデルの取り扱い MOからFEMまで
  スクリプト言語による多彩な処理 Pythonベース
  GUI上でのデータの編集操作性 テーブル表示・ツリー表示
J-GOURMETでの改良 データ処理速度 数倍〜100倍
  描画速度 数10倍
  データ互換性 外部シミュレーター、プリポスト
  GUI操作性 多様な設定変更
  GUIのカスタマイズ × 必要機能のみ表示
OCTAシミュレーター操作 ネットワークコンピューティング 並列実行制御
  OCTAシミュレーターの操作性 GUI修正
  シナリオに基づいたOCTAシミュレーター連携 × テンプレート提供
  OCTAシミュレーター解析条件と結果のDB化 × プロジェクト化
  OCTAシミュレーター解析手法・知識の蓄積 × 事例DB化