菱化システムが東北大・宮本教授らが開発したCCS製品群を外販

無機系材料設計に有効、産学共同研究を促進

 2002.08.13−菱化システムは、東北大学大学院工学研究科の宮本明教授の研究室で開発されたコンピューターケミストリーシステム(CCS)の販売活動を開始した。触媒や吸着分子、分離膜、セラミックス材料、電子材料をはじめ、商用化された一般のCCSではあまり扱われていない無機系材料の設計・開発に利用できるのが特徴。ただ、単なるパッケージソフトではなく、実際には宮本教授らのグループとの共同研究のスタイルでソフトを利用していくかたちになる。アカデミック主導ではなく、むしろ企業の現実の研究課題に役立つシステムとして開発されており、産学協同を推進する新しい取り組みとしても注目される。

 宮本研究室のCCSシステム群は、固体触媒、錯体触媒、吸着材、吸蔵材料、セラミックス材料、半導体、発光材料、超伝導材料、電子材料、トライボロジー材料、電池材料、膜分離材料などのさまざまな材料設計・開発に活用されてきた実績がある。

 具体的には、三次元モデリングシステム「NEW-RYUKI」(ソフト価格600万円、教育機関向けはすべて半額)、三次元可視化システム「NEW-RYUGA」(同600万円)、分子動力学エンジン「NEW-RYUDO」(同600万円)、トライボロジーシミュレーター「TRIBOSIM」(同800万円)、モンテカルロ計算エンジン「MONTA」(同600万円)、高速化量子分子動力学エンジン「Colors」(同1,000万円)、希土類対応のf軌道をサポートした「Colorsレアアース」(同1,200万円)、大規模系に対応可能な「ハイブリッドColors」(同1,500万円)、励起状態を計算できる「Colorsエキサイト」(同1,200万円)−の9種類のシステムがある。

 NEW-RYUKIとRYUGAは、宮本研究室のCCS群に対応したプリ/ポストプロセッサーとして働くGUI(グラフィックユーザーインターフェース)で、RYUKIは結晶構造の自由な切断による任意の表面作成、人口超格子などの界面計算のための二種類の構造の合体による界面構造作成、粒界をつくるための一部の構造だけの回転・移動、クラスターをつくるための球形構造の作成などの機能を持つ。RYUGAも、分子動力学法におけるアニメーションや軌跡表示、分子軌道や電子密度の可視化、計算結果のグラフ表示などに加えて、電荷などの電子状態の可視化、任意の切断面での分子軌道・電子密度表示、分子軌道のアニメーション、各原子の温度変化表示などユニークなグラフィック機能を搭載している。また、バーチャルリアリティ(VR)にも対応しており、三次元立体視、振動数や原子間距離の音響表現、三次元マウスのサポートなどを行っている。

 計算エンジンでは、分子動力学法(MD)のNEW-RYUDOは、触媒材料などの無機分野を中心とした応用的な系に適応させたプログラムで、構造の機械的破壊、せん断による構造変化、材料表面における結晶成長、材料表面への分子線照射などのシミュレーションを実行する機能を持っている。

 また、タイトバインディング法に基づく量子分子動力学法ではColorsシリーズがある。ベースとなる「Colors」は、任意の温度下における原子のダイナミクスとそれに付随する分子軌道のダイナミクスを計算することが可能。f軌道に対応させた「Colorsレアアース」は、希土類元素のすべてに関して電子状態ダイナミクス/化学反応ダイナミクスを解明することができ、希土類を含む先端機能材料設計に役立つ。古典MDとのハイブリッド化を実現した「ハイブリッドColors」は、反応に関係した重点部位を量子分子動力学で、それ以外の分子全体を古典分子動力学で扱うことにより、数千原子以上の大規模系においても電子状態ダイナミクス計算を行うことを可能にする。具体的にはColorsとNEW-RYUDOを組み合わせる。「Colorsエキサイト」は、励起状態を計算できるように拡張したプログラムで、基底状態と励起状態における電子状態ダイナミクスと化学反応ダイナミクスの差違を考察することが可能になる。光触媒反応の解明などに有効だという。

 一方、潤滑剤の分子設計を対象とするのがTRIBOSIMで、しゅう動条件下において二つの固体壁にはさまれた潤滑剤分子の動的挙動を明らかにするとともに、トラクション係数や粘度・動粘度などの物性を予測することが可能。また、MONTAは分子の固体表面や多孔体に対する吸着量・吸着サイト・吸着等温線などをシミュレーションできるグランドカノニカルモンテカルロ計算プログラムである。定量的な評価が可能なことが特徴。

 これらは、それぞれにソフト価格がやや高価に思えるが、この中には宮本研究室との共同研究費用も含まれており、ユーザーが実際に計算したい系に合わせたチューニングなども施されるという。共同研究が認められないと購入できない場合もあるようだ。

 宮本研究室としては、産学協同で研究活動を前進させるとともに、研究資金獲得の一助にしたいという狙いがあるようだ。菱化システムはCCSベンダーとして宮本教授と長年の関係があり、研究協力の一環として販売元を引き受けることにしたもの。代理店という形態をとっておらず、基本的には営利目的の考え方で扱っている製品ではないという。