JavaOne基調講演:リチャード・グリーン副社長

携帯電話市場でJavaが拡大、ウェブサービス対応や個人認証技術でリード

 2002.09.26−Java専門のデベロッパーズコンファレンスである「JavaOne」が、パシフィコ横浜で25日から開幕した。27日までの3日間で100以上のテクニカルセッションが行われる。初日の基調講演では米サン・マイクロシステムズのリチャード・グリーンJavaプラットホーム担当副社長が登壇し、Java技術の現状や将来の展望について述べた。とくに、Javaがすでに大きな成功を収めていること、ウェブサービスの中心的なプラットホームとして認識されつつあることを強調した。

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 講演の中でグリーン副社長は、「Javaは一種のエコシステム(生態系)である」と話しを切り出した。「ここには開発者とアプリケーションと消費者という三つの要素があり、それぞれが関係し合って生態系を形づくっている。とくに、開発者がこの生態系の推進剤となっており、すでに世界には230万人のJava技術者が存在しているが、その中の30万人が日本人だ。いまやIT(情報技術)関係のすべての開発プロジェクトの半分がJavaベースだといわれるが、逆に言うとまだ半分もJavaじゃないシステムがあるわけで、皆さんの仕事はますます増えて、もっと大きな成功を味わっていただけると思う」と述べた。

 消費者もこの生態系を牽引しており、グリーン社長はその一例として携帯電話の伸長を取り上げた。「携帯電話に代表される無線機器はパソコンの出荷台数をはるかに超え、2007年には10億台の市場規模に迫るという観測もある。携帯電話へのJava導入は急速に進んでいるが、現在のJava対応携帯電話の80%は日本市場向けであり、これは日本の開発者の皆さんのすばらしい努力の結果だろう。この動きは欧米にも広がりつつあり、米国では今年になってようやく全キャリア6社のうち5社から対応携帯電話が出揃った。欧州はもう少し進んでおり、ノキアなどは来年には全機種をJava対応にすると表明している」と述べ、サンが現在推進中の“プロジェクトMonty”に言及した。

 これは、携帯電話などの無線機器向けのJ2ME(Java2 マイクロエディション)のためのメッセージ、グラフィックス、ビデオ、音声機能などのサポートを強化するための技術で、基本仕様のMIDP2.0(Mobile Information Device Profile)、ストリーミングメディアなどをサポートするMMAPI(Mobile Media API)、ショートメッセージサービスを含む高度なメッセージ機能を実現するWMA(Wireless Messaging API)などから構成されている。

 続いて、講演の話題はウェブサービスに移る。グリーン副社長は「ときどき誤解があるようだが、Javaは現在のウェブサービス技術には完全に対応済みだ。サンは今年の6月にJavaウェブサービスデベロッパーズパック1.0を提供開始した。ソラリス、ウィンドウズ、Linuxのプラットホーム上で利用でき、チュートリアルやブループリントも含まれている。サイト(http://java.sun.com)からダウンロードもできるが、今回のJavaOneに合わせて公開したJ2EE1.4プレビュー版にも全部含まれている」と説明した。

 グリーン副社長は講演の最後を“リバティアライアンス”のデモンストレーションで締めくくった。「現在はアイデンティティクライシスの時代だ。一人があまりにたくさんのIDを使い分けるようになっているため、どのIDで何がどこまでの権限があるのか、自分自身にもわからなくなってしまっている。これを解決する認証システムをつくり上げようというのがリバティーアライアンスの活動であり、60社が協力して開発を進めている。もちろん、Javaが重要な技術基盤であり、ソースコードも開示している。完全にオープンなものだ」と論じた。

 デモンストレーションは、複数のサイトのウェブサービスが連携するという典型的なもので、ユーザーがお気に入りのホームページを見ながらコンサートのチケットを購入したり、航空券の予約をするというシナリオで行われた。音楽サイトで好きなアーチストのコンサート情報をリコメンドされたユーザーは、そのチケットを購入しようとする。しかし、チケット販売は別の業者が手がけているため、画面に注意を促すメッセージがあらわれ、そのウェブサービスに自動サインインするためにどの個人情報を提供するかを利用者自身が選択できるようにガイドしてくれる。この場合は、名前や住所、クレジットカード番号に加え、好みの音楽や映画のジャンルも提供することにした。こうしておけば、チケット業者から該当するコンサートなどの情報が自分に対してタイムリーに送られてくるようになるためだ。業者側にとっても、有力な個人情報をつかんだことになる。

 同様に、航空券のチケットも発注したが、後に自分の携帯電話に対して航空会社から空港でのカウンター案内が伝送されてくる。また、コンサートのチケット購入時にキャンペーンに当選したことを告げるメールも携帯電話に着信する。

 このデモンストレーションにおいて、ユーザーの個人情報はそれぞれの事業者が個別に保有できることがポイントになるという。グリーン副社長によると、「マイクロソフトのパスポート認証システムでは、すべての個人情報がマイクロソフト一社によって格納されてしまう。企業は、顧客と自分たちとの間に別の会社が割り込んでくることを好まない」ためだ。「ユーザーは自分自身でどの情報をどこに与えるかを完全にコントロールできるので、信頼できるサイトにはより多くの情報を与える可能性があり、結果的には双方にとっての利益は大きくなる」と強調する。

 また、「インターネット上でも現実世界と同様にやはり信頼関係が大切であり、個人情報を預けておけないと感じたら、普通は取り引き相手を取り替えようとするだろう。しかし、マイクロソフトのパスポートには選択の余地がない。さらに、信頼に足る実績を示しているなら良いが、マイクロソフトは自身がセキュリティに脆弱な面をさらけ出してきた。パスポートに支配されてしまったら、もし何かあった時にどうするのか」と危惧を表明。リバティアライアンスの優位性を力説した。