WPC Expo2002基調講演:米マイクロソフト古川享副社長

くつろいだ状態でパソコンを使う新しい利用法を提案

 2002.10.18−東京ビッグサイトで16日に開幕した「WPC Expo2002」の基調講演に米マイクロソフトの古川享副社長(アドバンスドストラテジー&ポリシー担当)が登場、「デジタル時代のマイクロソフトのビジョン」と題してビジネスや家庭における新しいパソコン活用シーンを示した。具体的な製品として、「タブレットPC」、「スマートディスプレーズ」、「ウィンドウズXPメディアセンターエディション」が、日本のユーザーに対して初めて披露された。全体として、いつでも、どこでも、どんな状態でもパソコンが人間のパートナーとして生活やビジネスを支援する密接な存在となることを強調。とくに、机の前に座るのではなく、くつろいだ姿勢でパソコンを楽しもうという新しい提案が目を引いた。

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 古川副社長によると、「アメリカ人はオフィスの中でも足を投げ出したり、くつろいだ姿勢で仕事をするのが好き」なのだという。家の中でもソファに寝そべって物を読んだり見たりしたいのがアメリカ人なのだそうだ。今回の基調講演のなかで取り上げられた三つの新製品は、まさにそうした生活スタイルにぴったりである。

 最初に紹介されたのがタブレットPC。古川副社長は、「会議でメモを取り、それをワープロで清書して印刷し、それにコメントを付け合って、また清書するなど、実際のビジネスではパソコン抜きで行わなければならない作業が多かった。また、ものを考える時には、何かを紙に書いて構想をまとめる人が多いと思う。いわば、これまでのパソコンは清書のための道具だったが、これからは考えるための装具、シームレスな情報共有の道具になっていく」と述べた。

 続いて登壇したアレックス・ロエブ副社長(タブレットPC担当)は、「タブレットPCは現時点で最も強力なウィンドウズXPクライアントであり、ノートブックPCと異なりフルパワーのパソコン機能を何も犠牲にしていない。いつでも、どこでも、ビジネスのやり方に合わせてパソコンの全機能に加えて、まったく新しいパワフルな機能も提供できる」と説明した。

 具体的な使い方としては、ソファに座るなどのくつろいだ体勢で画面を見せ合ったりするなど、リラックスしつつ他の人と共同作業ができるところが魅力なのだという。ペンによる直感的な操作も特徴で、料理のホームページを開いて、おいしそうな料理の部分を丸く囲んでコメントを手書きで付け加え、メールボタンを押すだけでその部分だけを切り取ってメールで送るというデモが行われた。データに直接触れて操作できるので自然でわかりやすい使い方ができるという。さらに、手書き文字を手書きのまま扱う“デジタルインク”の利点も強調され、「あえて手書きにすることで、よりパーソナルなメッセージとして伝わるのため、感情のこもったコミュニケーションが可能になる」とした。

 注目の手書き認識機能はかなりの精度で、古川副社長のへたな(失礼)文字でも問題なく認識した。手書き入力にほとんどストレスはないし、デジタルインクで入力しておいても背後では文字認識がなされているので、手書き文字をあとで検索することも可能だ。英語の認識は文字をつなげて書く筆記体でもOKだった(写真参照)。

 展示会場では、6社の製品が紹介されている。ノートパソコンのディスプレー部が反転してタブレット型に変身する“コンバーチブル型”を東芝とソーテック、エイサーが、キーボードのない“ピュアタブレット型”(無線あるいはUSBキーボードを使うことも可能)をNECとビューソニックが、デスクトップのディスプレー部を取り外しできる“変形コンバーチブル型”を富士通が出品している。アプリケーションは、XP用のものを完全な形で利用できるほか、タブレットPCならではの機能性を生かした専用ソフトも続々と登場する予定。

 6社のハードウエアは、11月7日から順次発売される。古川副社長によると、「ビル・ゲイツはタブレットPCがいたくお気に入りで、どこへ行くにも持ち歩いている。いまはそれしか使っていないようで、何を盗られてもいいがこれだけは困ると言っている」のだという。

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 続いて取り上げられたのは、開発コード名“Mira”と呼ばれていた製品で、「ウィンドウズパワード・スマートディスプレーズ」という正式名称が発表された。これは、ウィンドウズXPのリモートデスクトップ機能を利用し、ディスプレーだけを本体と切り離して持ち歩けるようにしたもの。ディスプレー部分にはウィンドウズCEが搭載されており、本体のパソコンとは無線で通信する。基本的に家庭内での利用を想定しており、キース・ホワイト氏(スマートディスプレーズ担当シニアディレクター)によると、「コードレス電話の親機と子機のような関係で、どの部屋からでもパソコンを自由に使えるようにするためのもの」だという。

 同社では、製品化に当たり、日本の家庭100世帯でベータテストを実施。「パソコンを置いてある部屋まで行かなくても、思いついた時にいつでも使えるモバイル性が高く評価された」とホワイト氏。リビングや寝室、台所で利用するという人が多かったという。子機を使用中は親機のパソコンはログオフ状態に移行するので、子機の画面を親機からのぞき見られたりすることはない。

 現在、NECと富士通が製品化を進めており、来年の初頭には実際の商品が発売される予定。講演の中では、デスクトップから取り外しできる17インチクラスの大型画面タイプと、2台目ディスプレーとして最適な10.4インチタイプの試作機が紹介された。ディスプレーにはソフトウエアキーボードを表示することが可能だが、画面の下半分を占めるぐらいに大きく出すこともでき、指で画面に触れることで文字入力が行える。子供やお年寄りが利用することも考え、ソフトキーボードは50音配列で表示することもできる。

 ただ、スマートディスプレーズは、ビデオチップが貧弱なため動画表示には向かない。これについてホワイト氏は、専用のアクセラレーターチップの開発にも着手しており、数年以内にはコストを上げることなくビデオ表示が可能な製品を提供できるとの見通しを示した。

 また、スマートディスプレーズに関して古川副社長は、「普通は作成した文書やウェブページを一旦印刷してから、それをゆっくり読んだりする。このディスプレーなら、そのままで寝転んで読むことが可能だ。また、子供のベッドで一緒に絵本を読むようにして使用すれば、親子の新しいコミュニケーションの材料にもなる」と述べた。

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 3番目は、ウィンドウズXPメディアセンターエディションである。今回が本邦初公開の製品であり、来年に製品化される予定。最初のOEMパートナーにはNECが含まれている。これも、ホーム市場をターゲットとしたもので、やはり家でくつろいでパソコンを使うというのがコンセプトである。ベースになっているのはウィンドウズXPプロフェッショナルで、通常の使用も可能だが、エンターテインメントコンテンツを楽しむ時だけ専用画面に切り替わる。

 この製品を紹介したのはマイク・タットュンギ副社長(eHome担当)。ステージ上にはリビングルームが再現されており、タットュンギ副社長がソファでくつろいで専用リモコンのグリーンボタンを押すと、画面が専用モードに変わる。メニューはいたってシンプルで、「テレビ」「ミュージック」「マイピクチャー」「マイビデオ」「DVDの再生」「設定」の6つだけ。パソコンに入っているそれぞれのコンテンツをリモコンだけで再生して楽しめる。

 講演の中で同社は、新聞のテレビ欄の情報を提供している日刊編集センターと提携し、デジタル番組表を配信することも明らかにした。ユーザーはその番組表をチェックしながらリモコンで簡単に録画予約を行うことができる。ハードディスク録画が可能なため、放送中のテレビ番組でもいったん止めて、追っかけ再生することなども容易。

 タットュンギ副社長は、「メディアセンターエディションはホームエンターテインメントを統合したパソコンだ。普段は普通のパソコンとして使用できるが、離れたところからリモコンを使ってみんなでわいわいやりながらコンテンツを楽しむといった新しい活用法を提案したい」とした。確かにメディアセンターエディションの専用画面はテレビを前提としたセットトップボックス風だし、実際にデモンストレーションでも表示にはプラズマハイビジョンテレビが使用されていた。テレビ側にアナログRGBコネクターなどが備わっており、XGAまたはSXGAを表示できる解像度を持っていれば、そのような使い方が可能になるという。ただ、かなりの最新型テレビが必要になるだろう。

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 講演の最後に、古川副社長は、テクノロジーの次の10年を占う“3つの波”についての話をした。注目されるのは、さまざまな機器やサービスの統合が進んでいる現在の“第1の波”に続く“第2の波”に関してで、ここで古川副社長はあらゆるデータやファイルが個人のパソコンの中で管理される時代は終わるとの見方を示した。

 「情報の格納場所が劇的に変化するだろう。ネットワークのどこかふさわしい場所で一元的に管理されるようになる。それは国家かもしれないし、そのようなサービスプロバイダーが多数出現するかもしれない。この時、すべての情報はデータベースで管理され、きちんとしたデジタルライツマネジメント(DRM)のもとに置かれる。現在のパソコンのデータファイルは実に無造作な状態で放置されているのも同様で、暗号化ひとつされておらず、第三者によって簡単にアクセスされてしまう。DRM技術のもとでデータベース管理されれば、権限のある人以外がそのデータに触れることはできなくなる。例えば、ある人が退社をしたとして、会社としてはデータを持ち出されたくない。DRMを使って、その人が使用していたファイルすべてに期限を設定しておけば、たとえファイルを持ち出されたとしても時間が来ればすべて消滅させてしまうことが可能だ」。

 「もちろん、世界中のデータをマイクロソフトが独り占めに管理しようなどと、そんなだいそれたことは少しも考えていない」と念を押すことも忘れなかった。