NECが高知医科大とHLA結合ペプチド予測ソフトを実用化

免疫系調節ペプチド医薬品開発に威力、製薬会社向けロイヤリティビジネスを展開へ

 2003.9.30−NECは29日、高知医科大学の宇高恵子教授らのグループとの共同研究により、ヒトの免疫機構に作用するペプチド医薬品の開発に役立つシステムを来年1月に完成させると発表した。細胞内のHLA(ヒト白血球抗原)分子の特定の型に結合するペプチドを70−80%という高精度で予測するシステムで、がんやエイズ、各種アレルギー症などの新薬開発に結びつく可能性がある。NECでは、このシステムを利用して製薬会社向けにデータベース提供や解析受託などのサービスを実施。実際に新薬が開発された場合、ロイヤリティ収入を中心に5年後に約10億円の売り上げにつながると見込んでいる。

 白血球の型であるHLAは、細胞がウイルスなどに感染したことを免疫機構に伝えるための役割を果たす分子。ウイルスなどの異物であるたん白質をペプチドの形に分解し、それがHLAと結合して細胞の外側に抗原として提示されるというメカニズムを持っている。これを抗原として認識し攻撃するキラーT細胞などの活動が実際の免疫機構となってあらわれるわけだ。

 このことを利用し、HLA分子に結合するペプチドをあらかじめ投与しておくことで免疫機構をコントロールしようというのが“免疫系調節ペプチド医薬品”と呼ばれるもの。特定の抗原に対して免疫を強く誘導させることにより、がんをはじめ、エイズやC型肝炎、SARSなどのウイルス/細菌性の疾病に効果を発揮する。逆に、免疫応答を抑制することでアレルギーやぜんそく、アトピー、リウマチ、花粉症などに有効な薬がつくれる。

 ところが、HLAとペプチドの相互作用を網羅的かつ実験的に調べるのはほとんど不可能だという問題があった。HLAには9残基のアミノ酸からなるペプチドが結合するとわかっているが、そのアミノ酸配列の組み合わせは全部で5,000億通りになるうえ、HLA自体が100数10種類もの型に分かれているためである。

 今回の共同研究グループは、今年の6月からプロジェクトをスタートし、まずは日本人に多いHLA-A24型と欧米人に多いA2型をターゲットとして、予測プログラムの開発に着手した。ここで、数少ない実験から効率良くルールを抽出するNEC独自の“能動学習法”を利用し、機械学習方式による予測で70−80%の高精度を実証。実験や予測結果の検証には、宇高教授らのHLA結合ペプチド実験技術が利用されている。

 具体的には、ある程度結合することがわかっている配列のペプチドを実際に合成し、実験結果から結合の強さ(結合能)を数値的にあらわしてシステムに学習させた。実際には、システムのなかにソフトウエアとして組み込まれた50個の学習機械(数学アルゴリズムとして隠れマルコフモデルを採用)が、それぞれに異なる実験データ(学習セット)をベースに異なる予測ルールを生成していく。そして、各学習機械に結合能の高いペプチドを予測させ、その予測結果が割れたサンプルの結合能を実験にかけて確かめるという作業を繰り返した。今回は、1回の実験に当たって20−30種類のペプチドを予測・選択し、実験を7回重ねたところで学習が収束し、共通的な予測ルールの確立にいたったという。

 この手法自体は、2001年に同社が京都大学理学部の宇高助教授(当時)らとの共同研究で実用化した技術で、当時はマウスを対象にしていた。今回のプロジェクトはこの継続的な発展線上にあるといえる。

 今回のシステムにより、5,000億通りのペプチドのすべてをコンピューター上で評価することができるため、思わぬ候補物質が発見される可能性が出てくるという。また、特定の病気に関係するたん白質がわかっている場合、そのアミノ酸配列をこのシステムでスクリーニングにかけることにより、配列のどの部分がペプチドとしてHLAに結合するかなどの貴重な知見が得られるとしている。グループでは順次、他の型のHLAについても同様に予測システムを作成していく。

 この結果として、NECでは、宇高教授らと共同で実際にペプチド医薬品の候補物質をみつけて特許申請することを考えているほか、プロジェクトの過程で得られたデータベースを製薬会社などに販売する。また、個別の受託研究サービスにも応じていく。NEC自体として医薬品開発を行うことは考えておらず、ロイヤリティ収入を中心としたビジネスモデルを成立させる計画だ。