NECソフトと九州大学がたん白質結晶化機構解明へ共同研究を本格化

専用解析装置を共同で製作、X線構造解析の進展に寄与

 2003.10.17−NECソフトは16日、九州大学と共同で、たん白質の結晶化メカニズムを解明するための新しい解析装置を開発、本格的な共同研究を開始すると発表した。現在、特定の病気に対する特効薬の開発や特定の個人に合わせたテーラーメード医療の実現に向けて、たん白質の立体構造を数多く解明することが急務だといわれているが、たん白質を結晶化することが難しい場合が多く、研究の進展に対する障害となっている。今回の共同研究は、結晶化メカニズム自体を解明することにより、たん白質研究の前進に貢献しようというもの。この装置を実際に利用して、2006年の初めまでに一定の成果を出したいとしている。

 このプロジェクトは、九州大学大学院農学研究院の山下昭二教授らのグループとの共同研究で、九州大学側から実験系研究員4名、NECソフト側から実験系・バイオIT系研究員6名が参加した体制で、今年の2月から3年間の目標でスタートしている。

 今回完成させたのは、たん白質が結晶化する過程を精密に観察・解析するための装置。具体的には、時間相関単一光子計数システム(TCSPC)にサブピコ秒レーザーを導入し、高精度の測定を可能にした時間分割蛍光偏光解消装置を開発した。研究グループでは、さらに分解能が数10ナノ秒の動的光散乱法システムを構築し、蛍光システムとの連携解析を行う予定だという。

 現在、たん白質の立体構造を最も正確に知ることができるのはX線回折装置だが、そのためにはたん白質を結晶化させて装置にかける必要がある。ところが、その結晶化のメカニズム自体がわからないため、目的のたん白質を単離し精製したあと、溶剤の組み合わせをマイクログラム単位で変えながら、うまく結晶が得られる条件を手探りで探索しているのが現状。それでも、試料が微量すぎたり、きれいな回折像が得られないなどの問題に直面する場合が多かったという。

 結晶成長の起点となるきれいな臨界核を生成できれば、成長自体を制御する技術はすでに整っており、その意味からも結晶化メカニズムを知ることには大きな学問的意義がある。

 今後、NECソフトは今回の装置から得られたスペクトルデータを解析し、たん白質の相互作用と結晶化に関する知見を引き出すためのソフトウエア開発に取り組んでいく。一方、同社は2001年10月から農業生物資源研究所とも有用たん白質の立体構造と機能解明に関する共同研究を進めてきている。そこで今回、両グループの研究成果を交換させつつ、三者連携体制で研究を進めることでも基本合意に達したという。

 なお、今回のプロジェクト発足を記念し、10月21日の午後1時から九州大学中央図書館でたん白質の構造と機能に関する国際シンポジウムを共同で開催する。問い合わせは九州大学の事務部092−642−2797まで。