2004年春季CCS特集:アドバンスソフト

最先端量子化学理論を商用化へ、9月めどパッケージ化

 2004.06.30−アドバンスソフトは、文部科学省プロジェクト「戦略的基盤ソフトウェアの開発」に参画しており、昨年10月にプロジェクト成果の商用化権を正式に取得。現在は、フリー版のサポートサービスを事業にしているが、9月をめどに独自の機能強化を施した“アドバンス版”のパッケージ化に順次乗り出していく。同プロジェクトは先鋭的なプログラムぞろいであり、商用版への期待は高い。

 この文科省プロジェクトでは5つの研究グループがそれぞれ開発を進めているが、CCS分野に関係が深いのはバイオ分野の「次世代量子化学計算システム」と「たん白質−化学物質相互作用解析システム」、物質・ナノテク分野の「ナノシミュレーションシステム」−の3つ。

 とくに、ProteinDFは、たん白質を対象とした量子化学計算という世界最先端のプログラムで、今年の12月にベータ版が完成する予定。今プロジェクトに先立つ研究成果として2001年に1,738個の原子を持つチトクロムCの全電子計算に成功しているが、この時の計算には1年半かかったという。しかし、現在では自動計算機能の実装により、同程度の計算を1日で完了するまでに高速化を達成。2006年度のプロジェクト終了時には1−2時間で計算できるようになる見通しだ。

 ベータ版は、専用のGUI上でアミノ酸配列のミューテーションを行いながら、MD計算をかけてから量子計算に移行し、50残基程度のたん白質の構造最適化を容易に実施することが可能。遷移状態や活性化エネルギーの見積もりなども行える。フリー版はだれでもダウンロードして使用できるが、ソースコードを開示されているコアユーザーグループが5チーム組織されており、実用化に向けてのフィードバックも行われている。

 一方、ABINIT-MPバイオステーションと呼ばれているプログラムもたん白質を量子理論で計算する機能を持つが、こちらはより実戦的に創薬研究に利用できるよう、たん白質と薬物との相互作用解析/ドッキングシミュレーションを行うことを主な目的としている。

 ProteinDFの密度汎関数法(DFT)と異なり、フラグメント分子軌道法(FMO)を採用しているため高速で並列化に適しており、現在でも5,000残基の系を半日から数日で計算できる能力がある。電子相関解析でMP2法を導入したことにより、さらに精度が上がり、実用域に向けて大きな前進がみられているという。

 ナノシミュレーション関係は、いまのところは細かなプログラムが多く、商品化には少し時間がかかりそうだ。

 このため、同社では、具体的なアプリケーションが最も先行しているABINIT-MPバイオステーションの商用化をまずは急ぎたい考え。ただ、GUIがまだ完成していないので、9月の段階では統合CCS製品として広く普及しているCCG社のMOEと接続して使うことも検討しているという。

 ProteinDFもABINIT-MPも、使いこなすためには背景となる理論を学ぶ必要があるため、同社では7月に解説書を自費出版して提供することにした。同プロジェクト成果のフリー版プログラムは最終年度の時点で凍結される予定であり、継続的なバージョンアップの点でも同社の使命は重大だといえよう。