日本総研がJ-OCTA製品版を本格的に事業化

予約者にベータ版をリリース、並列型COGNACも用意

 2004.05.13−日本総合研究所は、ナノ・バイオテクノロジー研究に向けた次世代材料設計支援システム「J-OCTA」(商品名)の本格的な販売活動を開始した。2002年3月まで実施された経済産業省プロジェクト「高機能材料設計プラットホームの開発」(通称・土井プロジェクト)の成果をベースにしたもので、予約販売という形で協賛企業を募り、3年間の商用化プロジェクトを推進してきた。このほど、予約者にベータ版をリリースするとともに、プロジェクトの母体を開発部門から事業部へ移し、本格的な事業体制を整えたもの。分子・原子レベルのミクロ領域を超えたメソ領域の材料特性をシミュレーションできるのが特徴で、マイクロ・エレクトロ・メカニカル・システム(MEMS)などの開発に応用できる。

 J-OCTAは、土井プロジェクトで開発されたフリー版OCTAの操作性を大幅に改善し、解析手順をシナリオ化できたり、事例データベースを備えたりするなど、実際の研究に役立つ機能を追加したもの。外部プログラムとの連携機能なども強化されている。メソ領域のシミュレーションシステムは、海外の一部で製品化が進んでいるだけで、いまだ未開拓の分野であり、純国産のJ-OCTAに対する期待は大きい。

 土井プロジェクトには、日本総研を含めて11社の企業が参加したが、現在までの予約購入者はそれを上回る16社に達しており、そのほかにフリー版OCTAを利用した共同研究や受託解析サービスを提供した企業が5社あるという。 J-OCTAの完成は来年3月であり、予約販売は今回のベータリリースを機に打ち切り、正式製品版の販売に移行している。

 このため、同社では新規顧客獲得に向けたセミナーを6月から順次開催していく計画。OCTAは、土井プロジェクトのホームページからフリー版を無償ダウンロードすることができるが、そのままで使いこなすのは難しいため、セミナーなどを通じて実際のOCTAの機能や使い方を教え、製品版の購入に結びつけていく。また、J-OCTAの期間限定試用版も用意し、積極的にユーザーの評価を求めていく考えだ。価格は標準構成で1,000万円。

 さて、今回予約者にリリースされたベータ版は、1年前のアルファ版に比べて、操作系が大幅に改良され、さらに使いやすくなった。機能面で大きく強化されたのは、粗視化分子動力学プログラム「COGNAC」用のモデラー。モノマー/ポリマーをモデリングし、自動生成した力場パラメーターを用いたモノマー/ポリマー初期構造生成、必要に応じて分子軌道法計算で電荷情報などを取得し、最終的な粗視化ポテンシャルを作成、具体的なCOGNAC用入力ファイルを用意するまでのすべての作業をGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)画面上で行うことができる。

 COGNACの実行はベータ版ではリモートサーバー上で行う(製品版ではローカルでも実行可能)が、フリー版OCTAおよびアルファ版で使用していたJava-RMIに代わって、SSHプロトコルを採用したため、サーバーへのログイン認証や通信暗号化に対応できるなど、セキュリティ面でも実用的になった。

 来年3月の製品版に向けては、解析事例データベース機能の実装、COGNACモデラーの機能強化、SUSHIモデラーの追加、MUFFINモデラーの追加、計算事例を手順化して実行させるシナリオ機能の装備、LSFを利用したグリッドコンピューティング対応−などを実現する予定。

 とくに、オプションとして提供が計画されている並列版COGNACである「VSOP」(仮称)が注目される。PCクラスターなどを用いて計算を並列化することで、10万粒子以上を対象にした大規模計算を現実的な時間内で処理することが可能だという。

 実際には、VSOPはCOGNACコードを直接並列化したものではなく、日本総研が日本原子力研究所・計算科学技術推進センターと共同開発した分子動力学シミュレーションのためのサブルーチン集「並列分子動力学ステンシルPMDS」を利用し、COGNACの機能を実装したプログラムとなっている。このため、COGNAC本体と比べると、温度・圧力制御がNH/PR法に限定されたり、静電相互作用解析がPPPM法だけだったり、利用できる境界条件が周期境界条件に限られたり、COGNAC特有のずりや固定壁を設定したシミュレーションができなかったりするなどの制限事項がある。また、OCTA専用のUDFファイル形式をサポートしないので、コンバーターを使って入力ファイルを作成することになる。このため、VSOPとCOGNACは相互補完的に使い分けるのが良いようだ。

 VSOPは、オプション製品となる予定だが、予約者には7月にベータ版を提供することにしている。