菱化システムがMOEに材料設計支援機能を追加

強力な分子シミュレーション、多彩なバルクモデリング機能を組み込む

 2004.08.05−菱化システムは、加ケミカルコンピューティンググループ(CCG)の汎用型コンピューターケミストリーシステム(CCS)である「MOE」に材料設計などに活用できる高度な分子シミュレーション機能を追加し、販売・出荷を開始した。ポリマーなどの鎖状高分子や凝集状態にある分子群、結晶構造などの複雑な分子系の動的な挙動を解析できる。MOEの追加機能として既存ユーザーには無償で提供され、欧米のユーザーにも一部配布される予定。来年以降は、さらにパフォーマンスをあげるため、MOEのコア部分への組み込みも行うが、自社開発した利点を生かし、積極的にユーザーからの要望を集めて機能の追加や改良を進めていく。

 今回の新機能は「MOE for Bulk Modeling & Simulations」(BM&S)と呼ばれ、菱化システムが加CCGおよび米イーオンテクノロジーと共同で製品化したもの。MOEは、CCSに最適化されたプログラミング言語“SVL”を持っており、機能追加が容易なことが特徴。今回のプログラムもほとんどがSVLで書かれている。当初は単独の製品としてリリースする計画もあったが、最終的にはMOEの製品体系に統合することで落ち着いた。

 標準のMOEは創薬分野の機能に重きを置いており、静的な分子構造の解析や構造最適化計算は得意だが、複雑な分子系のモデリングや分子シミュレーションの詳細な条件設定、シミュレーション結果の高度な解析機能などを持っていないため、とくに材料設計分野などへの適用は難しかった。

 そこで、今回のBM&Sは、MOEの使いやすいプラットホームを生かし、イーオンの高精度な力場を内蔵して本格的なバルクモデリングやシミュレーションが行えるようにしたもの。心臓部の分子動力学法(MD)エンジンもリニューアルされている。

 複雑な分子系を構築するためのビルダー機能は、ポリマービルダー、バルクモデルビルダー、結晶ビルダーなどがそろっており、とくに分子集合体の凝集状態を扱えるバルクモデルは周期境界モデルで一次元/二次元/三次元、クラスターモデルで球/厚板/筒−といった多彩なモデルをサポート。

 なかでも、球状クラスターモデルは受容体の活性部位における薬物分子の挙動などの解析にも有効で、球体内に水分子を自動的に発生させることなども可能。また、二次元周期境界モデルは多層フィルムや表面・界面のモデル化に利用でき、三次元周期境界モデルは温度・圧力による体積変化も再現できるようになっている。境界を分ける“壁”にはポテンシャルがかけられており、指定した空間内に原子を閉じ込める機能がある。複雑なバルクモデルでもGUIを使って簡単に構築でき、空間内への分子配置や構造緩和なども自動的に行えるのが特徴だという。

 また、MDシミュレーションの実行に際しては、プロトコルエディターを利用して複数の計算手順を簡単に自動化できる。条件を変えて計算を繰り返すシミュレーテッドアニーリン法への適用のほか、ガラス転移点の予測などにも応用できる。

 一方、合成高分子の物性予測を行うための構造物性相関機能も兼ね備えている。200種類以上のディスクリプター算出機能と各種の統計解析機能を持ち、相関モデルの構築と物性予測を自由に行うことが可能。単純な回帰分析だけでなく、主成分分析や遺伝的アルゴリズムなどの解析法を活用することにより、目的とする物性を支配する因子を抽出し、材料設計のための指針を得ることができる。

 とくに、合成高分子に関しては、ビセラノによる推算法をあらかじめ組み込んでおり、モノマー構造だけからガラス転移点や密度など50種類の基本物性を瞬時に推算可能。よく用いられる原子団寄与法とは異なり、分子のトポロジー情報に基づいた“コネクティビティーインデックス”と呼ばれるディスクリプターと物性の相関をモデル化したものであるため、適用範囲が広く、ユーザーによる機能拡張が容易であるなどの特徴があるという。

 なお、MOEの商品体系は使用する機能に対するトークン方式のライセンスとなっており、基本的にすべてのモジュールが一括提供される。このため、今回のBM&S単体の価格は存在しないが、菱化システムではトークンの追加購入などで売り上げ増が見込めるとしている。