2004年秋期CCS特集:菱化システム

MOEを基盤に自社開発を推進、材料設計支援などの機能実装

 2004.12.13−菱化システムは、加ケミカルコンピューティンググループ(CCG)の汎用型分子設計支援システム「MOE」をプラットホームにして新機能を独自に開発、ユーザーに提供するなど、単なる輸入販売の域を超えた事業展開が特徴になっている。昨年から今年にかけては、CCGと米イーオンテクノロジーとの3社共同で、MOE向けの材料設計支援機能を開発しており、国内屈指の総合化学会社をベースとするユーザー系ソフトウエアベンダーとしての強みをいかんなく発揮しつつある。

 今年の夏に提供を開始した材料設計支援機能は、バルクモデリング&シミュレーション(BM&S)と呼ばれる。標準のMOEは創薬分野の機能に重きを置いており、静的な分子構造の解析や構造最適化計算は得意だが、複雑な分子系のモデリングや分子シミュレーションの詳細な条件設定、シミュレーション結果の高度な解析機能などを持っていないため、とくに材料設計分野などへの適用は難しかった。BM&Sはその機能を補完するもので、イーオンの高精度な力場「チームフォースフィールド」をMOEの新型分子動力学法(MD)エンジンで使えるようにし、菱化システム側でさまざまなモデリングや解析機能を組み込んだものである。

 当初の計画では、イーオンがMDエンジンを新開発する案もあったが、CCG製のエンジンがかなり良くなったため、イーオンは最も得意とするパラメーターづくりにフォーカスすることにした。現在は国内ユーザー中心に提供しているが、来年春のアメリカ化学会(ACS)に出展し、欧米の市場でも本格的に展開をはじめる。

 ポリマーや結晶のモデリングやシミュレーションができるほか、バルクモデルを利用して受容体たん白質と薬物との相互作用を溶媒効果を入れて解くなどの応用も可能で、材料系のみならずライフサイエンス系のユーザーからも関心が寄せられているという。

 また、ドッキングシミュレーションを行う「MOE-ASEDock」を新開発した。今月に正式版をリリースする。これは同社が作成した3つ目のドッキングソフトで、たん白質に結合する薬物側の配座の違いを精密に考慮しつつ、高速にシミュレーションを実行できる。かなりの自信作だとしており、来年にはMOEの正式機能として組み込まれる可能性もあるようだ。

 一方、英インフォセンスの統合データマイニングプラットホーム「KDE」は、ケムインフォマティクス分野での普及が拡大中。データの流れがわかりやすいワークフローを構築して解析を行うツールで、ハイスループットスクリーニング(HTS)に利用するライブラリースクリーニングなどで威力を発揮している。HTSデータから活性化合物を抽出し、記述子解析や毒性予測によってふるいをかけるなどの一連の処理を簡単に行うことができる。作成したワークフローはウェブに公開できるので、研究者同士の情報やノウハウの共有にも役立つ。

 また、米ケムイノベーションの化学データベースシステム「CBIS」は、この1年間に4社への導入が進むなど順調で、とくにLIMS(研究所統合情報管理システム)の統合プラットホームとして評価が高いという。

 一方、新製品としては、米パラレルクワンタムソリューション(PQS)の量子化学計算専用PCクラスターマシン「QuantumCube」を販売開始した。計算化学に利用できるPCクラスターは国内のベンチャー企業などからも各種提供されているが、今回のマシンの特徴は量子化学計算専用にハードもソフトもあらかじめすべて導入・設定済みであることで、ほとんど電源をオンするだけで手軽な計算機実験装置として活用することが可能。