富士通が「バイオサーバー」の製品化にめど

先行出荷機を来年2月提供へ、3種類のアプリケーション搭載

 2004.12.15−富士通は、新薬の研究開発を支援するための各種高速計算を効率良く実行するための「BioServer」(バイオサーバー)の製品化にめどを付けた。まずは先行出荷機を来年2月から特定顧客向けに提供開始し、実際の研究現場での評価を得たあと、来年後半から本格的な商用機を出荷する計画。ターゲットたん白質に対する薬物候補分子の結合の強さをシミュレーションしたり、ドッキングスタディをハイスループットで実行したりすることが可能で、新薬候補物質の探索研究を大幅に時間短縮することが可能である。当初は3種類のアプリケーションをセットにして提供するが、将来的にはサードパーティーの移植なども働きかけていく。

 富士通が開発したバイオサーバーは、自社の組み込み型プロセッサー「FR-V」を使用し、128個単位で最大1,920プロセッサーエレメント(PE)まで拡張することが可能。大きなタスクを分割して計算する並列処理ではなく、複数のジョブを同時並行処理するためのハードウエアとしてデザインされており、多重化の効くアプリケーションであれば、PE数に比例して性能が直線的に向上するという特徴がある。並列処理のようにプロセッサー間通信もほとんど発生しないため、高価なクロスバースイッチのような機構も不必要で、高性能で安価なマシンに仕上げることが可能。

 先行出荷機のスペックとしては、PEにFR-Vシリーズ中で最も高性能な「FR555A」(360MHz/1.44GFLOPS)を採用し、PE当たり256MBのメモリーを搭載する。4個のPEで1モジュールとなり、それを32枚(128PE)組み込んだ2Uサイズのボックスが最小単位となる。同社では、128PEのデスクサイド型と、15台のボックスを内蔵できる最大1,920PE構成のラックマウント型の2種類のハードウエアを用意する。デスクサイド型で700ワット、ラックマウント型で11.7キロワットと、通常のPCクラスターに比べて大幅な低消費電力を実現できることも特徴。自社のPCクラスターとの比較では、ほぼ同一性能の構成でスペースは9分の1、消費電力は5分の1になるという。

 先行出荷の段階では、アプリケーションを組み込んだ専用機のかたちで提供する予定で、たん白質シミュレーション用の「BioServer/G」、ドッキングシミュレーション用の「BioServer/V」、バイオ情報検索用の「BioServer/S」の3タイプをそろえる。いずれもハードウエアは同一だが、Gモデルは分子動力学法(MD)ソフトの「GROMACS」、Vモデルは分子モデリングシステムCACheに採用されているドッキングエンジン「FastDock」、SモデルにはXML高速データベース検索エンジン「Shunsaku」がそれぞれインストールされている。

 Gモデルは昨年11月に試作機として発表(http://homepage2.nifty.com/ccsnews2/2003/4q/2003_4Qfujitsubioserverptype.htm)されたものと同じ用途を狙ったもの。グローニンゲン大学で開発されたオープンソースのGROMACS(http://www.gromacs.org/)を利用してギプスの自由エネルギーを精密に計算することで、たん白質と薬物分子との結合の強さを評価することが可能。エストロゲンレセプターを対象にした実証研究では、化合物の結合エネルギーの順序を正確に再現できたという。また、免疫抑制剤FK506の標的たん白質(FKBP)を対象にした実証研究では、薬剤候補化合物の結合エネルギーの実験と計算の誤差が2キロカロリー/モル以下となることを達成した。エストロゲンレセプターの計算ではMD計算回数が5,040回であり、高並列化による性能向上の余地が大きいこともわかったとしている。

 一方、VモデルとSモデルは、すでにバイオサーバー上での各アプリケーション動作を確認し、最適化を急ピッチで進めている。Vに乗せるFastDock(http://venus.netlaboratory.com/material/messe/cache/download/biomedcache_as61.pdf)は改良PMFと遺伝的アルゴリズムによる自動ドッキングを高速に行うソフト。化合物ライブラリーからのバーチャルスクリーニングを数倍から数10倍のスループットで実行することができるという。また、Sに乗せるShunsaku(http://interstage.fujitsu.com/jp/shunsaku/)は、富士通オリジナルのXML検索エンジンで、オンメモリーで検索するために非常に速い。バイオ分野では、公共データベースをはじめとする多くの情報がXML化される方向であり、このSモデルも今後ニーズが増えると予想される。

 同社では、先行出荷機の提供先を10−20社程度に絞り、十分なサポートのもとに評価を進めていく計画。商用機のリリースは来年後半となるが、PEを最新のFR-Vとするほか、PE当たりのメモリー搭載量も増やし、プロセッサーモジュール自体も新設計とする。商用化に向けてさらなる改良や機能拡張を加えていく。

 当初は富士通がアプリケーションも含めてすべてを準備するが、FR-V自体は組み込み用ではあるがLinuxが稼働しており、移植の手間はそれほど大きくないため、将来的にはサードパーティー製アプリケーションを利用できるようにしていく計画もあるということだ。