ElsevierMDLがIsentrisアライアンス戦略を加速

年内に2ケタのパートナー契約目指す、国内では独自展開を開始

 2005.09.21−ElsevierMDL(エルゼビアMDL)のアライアンス戦略が加速しはじめた。統合化学情報管理プラットホームの次世代製品「Isentris」(アイセントリス)を中心に据えた“Isentrisアライアンス”戦略が進展、業界で大きな勢力を形成しつつある。このアライアンスには、ストラテジック、プリファード、ベーシックの3つのレベルがあり、年内にストラテジックパートナーで5−10社、プリファードパートナーで10社程度との契約を目指す。9月7日から9日にかけて宮崎・フェニックスシーガイアリゾート国際会議場で「日本ユーザー会」が開催されたが、それに合わせて来日したIsentris担当ディレクターのトーマス・ブラッカダー氏および日本法人代表取締役のビル・ボーク氏に日本市場を含めたアライアンス戦略について聞いた。

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 Isentrisは、医薬品の研究開発プロセスを一貫して支援できるIT(情報技術)プラットホーム製品。ElsevierMDL自身でも独自開発のワークフローアプリケーションとして、電子実験ノートブックの「MDLノートブック」、試薬の調達や在庫管理を行う「MDLロジスティクス」、化合物情報の登録を行う「MDLレジストレーションマネジャー」などを提供している。それに加えて、他のベンダーをこのプラットホーム上に取り込むことで、広範囲なアプリケーションやサービス、ソリューションをそろえ、ユーザーに提供できる価値を最大化させようというのが今回のアライアンスの狙いだ。

 具体的な提携内容としては、ストラテジック、プリファード、ベーシックの3段階がある。ブラッカダー氏は、「ストラテジックレベルは、相互に強固な戦略的パートナー関係を結び、単なるデータの受け渡しではなく、互いの製品がまるで1つの製品のように密接に連携して動くような統合を目指す。現在、米スポットファイアーと米トライポスがこのレベルのパートナーとなっている。プリファードレベルは、当社が技術サポートを提供して、先方がシステム構築やインテグレーションを行うケースだ。米デルタソフト、仏KLEEグループ、仏アストンの3社と契約している」と説明する。

 プリファードレベルのパートナーはすべてコンサルティングファームだが、プロジェクト単位での案件が主体だったためにたまたまそうなったもので、近くソフトベンダーとしての新しいプリファードパートナーを発表できるという。最後のベーシックレベルだが、これは開発者ライセンスを取得したうえで、自由にIsentris上でのアプリケーションを開発できるという内容の契約となる。

 今後の見通しとしてブラッカダー氏は、「あくまでも希望だが、年内にストラテジックレベルは5−10社、プリファードレベルは10社、ベーシックレベルは数知れずといきたい」と話す。

 とくに、ストラテジックパートナーとは、製品の連携・統合に向けた開発作業が進行中。例えば、Isentrisのクライアントソフトである「MDLベース」とスポットファイアーのデータマイニング製品である「デジジョンサイト」がシームレスに連携し、データベースを検索して得られた大量のヒットをデシジョンサイトに渡してフィルタリング/マイニングを行い、絞り込んだ結果だけをMDLベースでブラウジングすることなどが可能。別々の製品を組み合わせて使うというイメージではなく、MDLベースの中にデシジョンサイトのメニューやボタンが埋め込まれているので、ユーザーはあたかも1つの製品のようにその機能を使いこなすことができる。実際のデモンストレーションが今回の日本ユーザー会で披露されたが、製品化の時期はまだ未定だという。トライポスとのプロジェクトは、いまのところ詳細な内容が決定していないようだ。

 さて、Isentrisアライアンスの国内での展開だが、日本と欧米との市場性の違いにより、アライアンスの形態としてそのまま当てはめられない部分が大きいため、日本独自でのパートナーシッププログラムを用意することにした。ElsevierMDL日本法人のボーク氏は、「国内のユーザーはコンサルティングからシステム構築、運用サポートまで包括的なサービスを期待する場合が多いため、そうしたニーズに応じることのできるパートナーが必要になる。Isentrisアライアンスとは異なる契約形態ではあるが、当社からは製品トレーニングの実施、評価用ライセンスの貸与、技術情報の提供、コンサルティングサポートなどを行うほか、パートナー組織を立ち上げて密接な交流を図っていく」と説明する。日本的なコンサルティングやシステムインテグレーションでは、ベンダーが手がける業務範囲が広くなりすぎて、Isentrisだけを中心に据えたアライアンスのスキーマが組みにくいのであろうと推測される。

 しかし、今回の戦略は日本市場の特殊性を考慮したものであり、欧米のやり方を無理に押し付けるよりは実効が期待できそう。ボーク氏は、「Isentrisアライアンスパートナーに日本法人や代理店があれば、協力して積極的にビジネスを進めたい。また、ストラテジックパートナーとの統合製品の恩恵は国内のユーザーにも十分に享受していただけると思う」とし、今回のアライアンス戦略がユーザーの利益に広く還元されることを強調した。