国立情報学研究所がNAREGIグリッドミドルウエアのベータ版公開

高機能ジョブスケジューラー搭載、溶媒中のたん白質構造計算で連成解析実現

 2006.05.10−国立情報学研究所(NII)は、「超高速コンピュータ網形成プロジェクト」(NAREGI)で開発したグリッドミドルウエアのベータ版を、きょう10日からオープンソースソフトウエアとして公開・配布する。資源管理ミドルウエアやプログラミング環境、アプリケーション環境、データグリッド環境、ネットワークセキュリティ環境などを構成する各種ツールが含まれており、インターネットを介して自由にダウンロードすることができる。プロジェクトでは、今回のベータ版での利用者からの意見や提案を盛り込みつつ、2007年度に正式版公開を目指してさらに完成度を高めていくことにしている。

 NAREGIは、文部科学省による2003年4月からの5カ年計画として、NIIと分子科学研究所が中心になって産学連携のかたちで進めてきたプロジェクト。2006年度からは文科省「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの利用開発」(京速コンピュータープロジェクト)の一環として発展的に組み込まれた。

 具体的な開発成果であるNAREGIグリッドミドルウエアのアルファ版は、昨年度に分子研および全国の大学の大型計算機センターで内部評価に利用されてきたが、今回、より広範囲にベータプログラムを展開することにしたもの。実際のベータ版は、プロジェクトのホームページ(http://www.naregi.org)のダウンロードコーナーから入手できる。

 利用者は、自分のマシン環境にインストールして、グリッドコンピューティング機能を利用することが可能。ただ、NAREGIプロジェクトの計算機資源にアクセスするためには、別途共同研究契約などを結ぶ必要があるようだ。

 さて、NAREGIミドルウエアには、分散した計算機環境を統合管理する「分散情報サービス」や高機能なジョブスケジューリングを行う「スーパースケジューラー」が実装されており、ネットワーク上の最適なマシンに処理が自動的に割り振られるため、利用者は1台のサーバーを利用する感覚でたくさんの計算機資源を簡単に活用することができる。

 基本的にグリッド関連の国際標準・業界標準に準拠しているが、資源割り当てとジョブ実行制御でOGSA-EMS仕様の世界初の実装、GridRPC仕様の国際標準提案とそれに準拠した世界初の実装、WSRFでの大規模分散データの会話型可視化機能を世界で初めて実現するなど、先進的な面も備えている。

 認証局ソフトウエアも用意されているため、ウェブブラウザーからログインすることによって、そのユーザーに許可された資源やツールへのアクセスが簡単に行えるのも特徴。とくに、この機能を利用して、“バーチャルオーガナイゼーション”(仮想組織)型の研究コミュニティーを階層的に立ち上げていくことが可能である。仮想組織ごとに専用のグリッド環境が用意され、計算機やデータ、プログラムなどを共有できるので、効率の高い研究活動が行えるようになる。

 NAREGIプロジェクトにおける具体的なアプリケーションは、コンピューターケミストリー関連が中心となっている。専用の連成シミュレーション支援ツールも開発されており、溶媒中のたん白質の構造計算を行った事例がある。

 具体的には、RISM法による溶媒(水)計算と、疎結合FMO(フラグメント分子軌道)法によるたん白質分子の構造計算(真空中)を連成させ、溶媒中でのたん白質の構造解析を実現した。NAREGIグリッドミドルウエアは、複雑な手順の処理をシナリオ化する「ワークフローGUI」機能を備えており、必要なコンポーネントをつなぎ合わせるだけで大規模計算のジョブ投入をわかりやすく行うことが可能。これらのコンポーネントがグリッド内の各計算資源に割り当てられることになるが、「スーパースケジューラー」が自動的に行ってくれるため、ユーザーは何も指定する必要はない。また、計算結果のデータはグリッド内の各所に分散していることになるが、「遠隔可視化ツール」を使うと、それらのデータを自動的にまとめてくれるので、さまざまな可視化機能を駆使して容易にデータ解析を行うことができる。