マイクロソフトがWindowsVistaの新機能を公開

洗練された操作性を実現、企業向けでは運用コストを大幅削減

 2006.04.22−マイクロソフトは21日、来年1月に一般発売が予定されている次世代OS(基本ソフト)「WindowsVista」に関する報道機関向け説明会を開催。家庭向けと企業向けに用途を分けて、最新のカスタマーテクノロジープレビュー(CTP)版を使って実際の機能をデモンストレーションした。統一メッセージは「クリアな視界を提供する」こと。家庭向けでは操作性の向上と洗練された画面、そして簡単に高いセキュリティが実現できること、企業向けでは社内におけるパソコンの運用・展開・管理コストの大幅な削減が可能になることなどが強調された。

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 WindowsVistaの製品版は、コンシューマー向けで3つ、企業向けで2つのパッケージから構成される。コンシューマー向けは、ウェブブラウジングやeメールなどの基本的な使い方に限定した「WindowsVistaホームベーシックエディション」、メディアセンター機能を備えるなどデジタルホームの中核となる「同ホームプレミアムエディション」、最高のホームエンターテインメントと標準的なビジネス機能を統合した「同アルティメットエディション」、企業向けは「同ビジネスエディション」と「同エンタープライズエディション」に分かれており、後者はボリュームライセンスでの導入が基本になるようだ。

 発売へ向けてのスケジュールだが、現在は特定顧客やパートナー向けのベータ2プログラムが進行中で、この2月に最新のCTP版がリリースされている。第2四半期にはより広範囲な配布を行う「カスタマープレビュープログラム」(ベータ2プログラムの後段に当たる)が開始され、いくつかの中間ビルドのリリースが行われたあと、11月にボリュームライセンス顧客(企業ユーザー)向けに早期リリースを開始。OEMや小売りを含む一般向けには来年1月からの出荷になる。

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 WindowsVistaにおける家庭向けのメッセージは「混沌としたデジタルの世界にクリアな視界を提供する」こと。もっと安全な環境で、もっと簡単にパソコンを楽しむことができ、ステップアップの可能性がもっと明確になり、より幅広くなることを目指している。

 とくに、WindowsXPとの大きな違いは、新しいユーザーインターフェース技術“Aero”(エアロ)と新しいファイルシステム“WinFX”が搭載されたこと。Aeroによってウィンドウの半透明化や三次元化などが可能になり、操作性が大きく変わる。たくさんのウィンドウを開いた場合でも、半透明化によって隠れているウィンドウの内容が判別しやすいほか、タブキーによるアクティブウィンドウ切り替えの際やタスクバー上においても、ウィンドウの作業内容がこれまでのアイコンではなくサムネール画面で表示される。また、ウィンドウズキーとタブキーの同時押しで開いているウィンドウが三次元に重なって表示される。その状態でカーソルキーを使うと、ウィンドウをめくるように切り替えることができる。

 一方、WinFXによってファイル検索機能の強化が実現され、大量のファイルの中から目的の情報をす早くみつけ出すことが可能。ファイルはタグによって分類管理されており、「クイック検索ボックス」を使ってさまざまなキーワードでファイルを探すことができる。エクスプローラーには「ビュースライダー」機能が組み込まれており、フォルダーの中味をイメージで確認できるため、どこに何が入っているかがわかりやすい。

 デジタルコンテンツの管理では、音楽やビデオ用の「Windowsメディアプレーヤー」、写真・画像用の「Windowsフォトギャラリー」が提供されるが、これにもAeroやWinFXが使われており、タグで分類することで操作感が向上した。例えば音楽データでは、メタデータを使ったリッチ表現により、アルバム画像をアイコンに使うことができるなど、表現力も高まっている。WindowsXPでは別パッケージだった「メディアセンターエディション」の機能が包含されており、リモコンを使って家庭のテレビでコンテンツを簡単に楽しむこともできる。

 インターネットエクスプローラー7(IE7)の新機能との関連では、フィッシング詐欺などの疑わしいサイトへの接続をブロックする機能が提供される。これらのサイトをブラウズしようとすると、アドレス表示欄が赤または黄色に変わり、警告文が表示される。ペアレンタルコントロール機能も使いやすくなっており、子供が利用するウェブサイトのフィルタリングやコンテンツの制限、利用時間の制限、プログラムへのアクセス制限などをわかりやすく設定できるようになった。子供の利用状況のレポートをとることもできる。

 その他、IE7はタグブラウザーとなり、コントロールキーを押しながらリンクをクリックすることによって、新しいページを別のタグに開いたり、開いているタグをサムネールで一覧表示したりすることが可能。印刷機能も強化され、ウェブ画面を縮小してページ内にきれいに収めたり、画面の一部分だけを印刷したりすることもできるようになった。

 その他、インターネットに接続してブログの更新情報や天気予報を表示させるなど、ちょっとした便利なツールをデスクトップ上に表示させる「ガジェットツール」の存在など、MacOSXちっくな機能も搭載されている。

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 WindowsVistaにおける企業向けのメッセージは、「企業ITインフラストラクチャーにクリアな視界を提供する」こと。同社の調べでは、日本の企業の55%はバラバラなシステムを導入している状態で、今後パソコン環境を含めたITシステム基盤を標準化していかなければならないという課題を抱えているという。そこで、今回のデモンストレーションでは、セキュリティ対策におけるコスト削減の事例が取り上げられた。

 その1つは多層化されたセキュリティ対策。情報漏えいを防止するためにUSBメモリーなどの外部記憶デバイスを使用禁止にする場合、WindowsXPではレジストリーの書き換えが必要だったが、WindowsVistaではポリシー設定でそれを行うことが可能になった。操作は、セキュリティポリシー管理画面でリムーバブルデバイスの制限を有効にするだけ。USBメモリーなどを差し込んでも、デバイスドライバーのインストールが許可されない。

 また、パソコンの盗難への対策として、ハードディスクのボリューム部分を暗号化し、キーがなければ起動できないようにする「ビットロッカー」機能が紹介された。これが設定されていると、暗号キーを収めたUSBメモリーなどが接続されていないとパソコンが起動できない。セキュリティポリシーでUSBメモリーが禁止されていても、OSが働く前段階なので起動キーとして使うことは可能となっている。

 次にデモンストレーションされたのが、デスクトップ展開プロセスの効率化である。企業内への大量のパソコンの導入・展開をコストをかけずに容易に行うことができる。まず、セキュリティ設定などを適切に行ったひな形を作成し、新しいコマンドラインツール「Ximage」を使ってキャプチャーして標準イメージファイルを作成する。展開時のネットワーク負荷を下げるために高圧縮をかけることができ、デモでは2.9ギガバイトのひな形が860メガバイトのWindowsイメージファイル(wimファイル形式)に圧縮された。その標準イメージを「ビジネスデスクトップデプロイメントツール」(BDD)を使って展開サーバー上にアップロードしたあと、BDDから部門別に利用されるアプリケーションなどを追加してイメージファイル化、さらにOSのセットアップに必要なプロダクトIDや組織名などの設定情報を加え、起動ディスクを作成する。展開先のパソコンからこの起動ディスクを立ち上げると、展開サーバーに接続し、必要なソフトをダウンロードしてセットアップを開始するということになる。これにより、25%のコストダウンが可能だという。WindowsVistaのこれらの機能を活用することにより、企業のITシステム基盤の標準化と最適化のステージを一段と進行させることができると強調した。

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 米マイクロソフトのビル・ゲイツ会長兼チーフソフトウエアアーキテクト(CSA)が来日した。今回の目的の1つは、21日に行われたイベント「NPO Day 2006」での特別講演を行うことで、ゲイツ会長はそれに先立つ記者会見で、同社の日本法人が推進している3ヵ年計画“PLAN-J”の社会貢献活動の一環としてNPO(民間非営利団体)を支援する取り組みを開始すると発表した。また、ライフスタイルとワークスタイルの両面で、ますますソフトウエアが技術革新を牽引するようになるとし、同社が次世代プラットホームとして推進中の“ライブプラットホーム”の重要性を強調した。

 ゲイツ会長は、社会や家庭における環境変化を促すソフトウエアの力を過小評価すべきではないと述べ、「ソフトの研究開発に毎年60億ドル以上を投資している企業はほかにはない」と、今後も同社が技術革新をリードしていくとの考えを示した。

 とくに、「NPOの活動を支援するうえでもソフトの力は大きい」として新たな取り組みを紹介。これは、基礎的なIT(情報技術)スキルをオンラインで学習できる無償の「デジタルリテラシーカリキュラム」の提供、21日を皮切りに全国各地で定期的に開催されるイベント「NPO Day」、NPO向けのソフトやサービスを集めるための「NPOパートナーシッププログラム」の推進、公募によってNPOに助成金を提供する「マイクロソフトNPO支援プログラム」−から構成される。

 また、ゲイツ会長は今後のITのトレンドに関して、「放送と通信の融合は一段と進展し、インターネット経由で動画を入手する機会はますます増えるだろう。コンテンツの選択性・双方向性、ターゲットを絞った広告配信が可能なことなど、インターネットの利点は明らかだ」とコメント。

 ただ、放送業界と通信業界の企業統合がうまくいかないことについて、「1つの会社ですべてをやろうとすることが間違い。企業は専門性を深めるべきで、異なるノウハウを持つもの同士のパートナーシップによってサービスを実現しなければならない。ソフト業界における当社とIBMの違いに例えることができる。IBMは何でも自分でやろうとしたが、当社は事業をフォーカスし、パートナーシップによって大きな枠組みを実現させた。実際、われわれのパートナーのビジネス規模はマイクロソフトの10倍だ。今後のインターネットサービスビジネスにおいても同様で、当社は“ライブプラットホーム”を通して、パートナーがロイヤリティなしでサービスに参入できる機会を提供する。マイクロソフト以外のどんなデバイスでも接続できるようにする。いわば、ソフトウエア産業全体のためのプラットホームを構築しているわけで、そうした標準的でオープンなインフラに集中することが当社としては得策だと考えている」と述べた。