米ケンブリッジソフトがChemDrawの最新バージョン11をプレビュー

開発ディレクターのカーター氏にインタビュー、年間サイトライセンス推進へ

 2007.05.03−米ケンブリッジソフトのソフトウエア開発ディレクターであるジェフリィー・P・カーター氏がCCSnewsのインタビューに応じ、今年の夏にリリース予定の化学構造式作図ソフトの最新版「ChemDraw11」の概要を明らかにした。同社では、ChemDrawを化学者の個人的なツールではなく、企業や大学などの組織的な研究インフラを支える標準技術のポジションへと押し上げようとしており、そうした観点での機能強化に力を入れている。このため、昨年からアニュアルサイトライセンス(年間使用契約)への移行を促進しており、すでに世界で450機関がこのライセンスに切り替えた。国内でもこの動きを加速させる。

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 ChemDrawは、化学者のための定番のツールとして長い歴史があり、とくにここ日本でファンの多いソフト。二次元の化学構造式を作図するという単純な機能だが、操作系がよく練り込まれており、ツールバーを使わないホットキーでの操作、カスタマイズ自在の豊富なテンプレートなど、抜群の使い易さを誇る。また、反応式を記述すると、その反応の化学量論に基づいて仕込み量などを自動計算する機能も組み込まれている。長年のバージョンアップを通してさまざまな機能が搭載されているため、便利な機能に気づいていないユーザーも少なくないということだ。

 今回のバージョン11では、WindowsVistaに正式対応するほか、構造式のクリーンアップ機能の強化、ChemFinderなどの他のソフトを使わずにSDファイルの入出力が可能になるなどの多くの改善が図られているが、目立ったところでは「ISISプリファレンス機能」の搭載がある。

 これは、企業ユーザーにおける化合物情報の登録に関して、ElsevierMDL社のISIS/Drawを標準ツールに採用しているところが多い(化合物登録のホストシステムがISISで構築されているため)ことに対応したもの。ボタン1つで構造の描画ルールとソフトのルック&フィールがISIS/Draw風に一気に切り替わる。ISIS/Drawとの互換性をさらに高めているうえ、ChemDrawの高機能性を生かせるのでユーザーにとっても使い易い環境になるという。

 とくに、ElsevierMDLの新しい作図ツールであるMDL DrawはISIS/Drawのコンパチモードをサポートしていないので、企業ユーザーには待ち望まれた機能だとしている。 ChemDrawを標準ツールとしてサイトライセンスを推進するための大きな武器になるというのが同社の期待である。

 また、バージョン11では、シーケンスツールも搭載された。これは、アミノ酸や塩基配列を簡単に入力するためのもので、アミノ酸であれば、アラニンは「a」、グリシンは「g」、システインは「c」といった具合にキーボードから頭文字を打つだけで配列をつないでいくことができる。DNAなどの場合は「a」、「g」、「c」、「t」と打つことで塩基配列を入力することができる。これらはただの文字ではなく、背後では実際に分子構造を持っているため、ワンクリックで任意の部分を構造式として展開することも可能。クリーンアップ機能が強化されているため、長い配列でも作図が崩れることはない。

 一方、今後のロードマップとしては、現在はC++で書かれているところを、ドットネットやJavaで書き換え、ウェブサービスを利用した近代的なITインフラに対応させる計画がある。次期のバージョン12で、暫定的にアーキテクチャーを変更し、レガシーなC++コードと共存させるかたちで、ドットネット/Java版のChemDrawを登場させる。最新のITのトレンドに追随し、開発効率を高めることが理由だが、GUIや操作系が変わってユーザーを戸惑わせるようなことはないようにするという。

 同社では、今後は年間サイトライセンスを積極的に推進するうえからも、製品開発のビジョンやロードマップなどについてユーザーと密接なコミュニケーションを図りたい考え。これまではほとんどしてこなかった製品発売前の情報提供にも力を入れていく。