文科省RSS21プロジェクト終了にあたり成果報告会を開催

産業界での活用が進展、公開ソフトさらに前進へ

 2008.03.28−文部科学省「革新的シミュレーションソフトウェアの研究開発」(RSS21)プロジェクトは26日、東京・駒場の東京大学生産技術研究所において、3年間にわたるプロジェクトの締めくくりとなる成果報告会を開催した。成果物としてのソフトウエアは、最終バージョン26本がすでにインターネットに公開中で、累計ダウンロード数は4万5,500件に達している。成果報告会では、それらのソフトの概要が発表されたとともに、実際に産業界において活用した事例やそのできばえに対する一定の評価も下された。

 RSS21プロジェクトは、2005年度から2007年度までの3年間、約32億円の事業費をかけて推進された。

 成果報告会では、4分野/10チーム(1)生命現象シミュレーション(創薬・バイオ新基盤技術開発へ向けたタンパク質反応全電子シミュレーション、タンパク質・化学物質相互作用マルチスケールシミュレーション、器官・組織・細胞マルチスケール・マルチフィジックス・シミュレーション)、(2)マルチスケール連成シミュレーション(ナノ・物質・材料マルチスケール機能シミュレーション、革新的汎用連成解析シミュレーション、マルチフィジックス流体シミュレーション、ハイエンド計算ミドルウエア(HEC-MW)援用構造シミュレーション)、(3)都市の安全・環境シミュレーション、(4)共通基盤技術(全体系最適化シミュレーション・プラットホーム、地球シミュレータ用ソフトウェアの高速最適化)のリーダーがそれぞれのソフトの概要を紹介。(公開ソフトの概要は以前の記事を参照)

 また、産業界での活用事例として、九州大学大学院・システム生命科学府の千葉貢治氏(ProteinDF)、キッセイ薬品工業・創薬研究部創薬設計研究所の小沢知永副主任研究員(BioStation/ABINIT-MP)、大成建設・技術センター建築技術開発部の森川泰成部長(EVE SAYFA)、日立製作所・日立研究所の小林金也主観研究員(Chase-3PT)、宇宙航空研究開発機構の情報・工学センターの谷直樹開発員(FrontFlow/blue)、マツダ・車両実験研究部の農沢隆秀部長(FrontFlow/red)、IHI・基盤技術研究所解析技術部の笠俊司部長(FrontSTR)、日立プラントテクノロジー・研究開発本部土浦研究所の小林博美主任研究員−らの発表が行われた。RSS21で開発されたソフトウエア群が、企業の研究現場で具体的に評価されつつあることを知ることができた。

 今回の成果報告会には、約300人が聴衆として詰めかけ、会場はほぼ満席の状態。懇親会にも80人ほどが出席するなど、終始盛況のなか幕を引いた。

 RSS21プロジェクトの代表を務めた東京大学の加藤千幸教授は、「今回のプロジェクトの本当の評価は、5−10年後にこれらのソフトが産業界で使われて、生き残っているかどうかで下されると思う。その意味で、今回の事例報告を聞き、少なくともいくつかのソフトは生き残ると確信できた。(前身の戦略的基盤ソフトプロジェクトを含めて)この6年間で感じたことは、開発者だけの努力では普及まで行かないということ。ユーザーである産業界との連携、ソフトベンダーの協力・支援が不可欠であり、ここへきて3者の一体感が生まれてきた。つまり、これからが普及の本番であり、この勢いを止めずにさらに前進させる責任があると感じている」と総括した。

 プロジェクトはこれで終了となるが、東京大学では今年の1月に「革新的シミュレーション研究センター」(加藤千幸センター長)を設立している。1月の記者会見では、このセンターで公開ソフト26本のプログラムやライセンスの管理が行われるが、バージョンアップはしないという説明だった。ところが今回は、センターのもとでワーキンググループ活動を継承し、研究開発をさらに進める方針が示された。会のなかでは後継プロジェクトの要望を出しているという話しも出たが、いずれにしても同センターを中心としてさらなる前進が期待できることになりそうだ。今後の推移に注目したい。