菱化システムが半経験的分子軌道法ソフトの最新版「MOPAC2009」発売

MOZYME法のサポートでたん白質に対応、高精度な構造計算を実現

 2009.02.10−菱化システムは、米スチュワート・コンピューテーショナルケミストリーが開発した半経験的分子軌道法ソフトの最新版「MOPAC2009」の販売・出荷を開始した。最大の特徴は、巨大分子系を高速に計算できるMOZYME法が搭載されたことで、たん白質の構造最適化などを手軽に行えるようになった。MOZYME法は、MOPACが富士通によって開発されていた時代に導入された手法で、富士通版の後継製品である「MO-G」には含まれているが、本家のMOPACには組み込まれていなかった。今回のMOZYME法のサポートで、MOPAC2009はようやく完全版になったといえそう。

 MOZYME法は、局在化分子軌道を用いて遠距離の原子間相互作用をカットオフすることによって計算時間を大幅に短縮できる。通常のMOPACに比べて、1万5,000原子程度の分子の場合、SCF計算が1,000倍に高速化され、必要なメモリーも100分の1で済むという。このため、一般的なスペックのパソコンでたん白質の構造計算を実行することが可能。

 基本のMOPAC部分の機能は以前のバージョン(MOPAC2007)とほぼ同じだが、この時に搭載された新しいハミルトニアンである“PM6”をMOZYME法と組み合わせられることが大きなメリットになる。PM6は非常に高精度で、非経験的分子軌道計算に近い結果が出せるとされる。また、分子構造や水素結合の高い再現性において大幅な向上が期待できるため、MOZYME法でたん白質を対象とした場合には、構造計算の精度が一段と高まることになるということだ。PM6のパラメーターが周期律表の重い金属原子までカバーしていることもたん白質向きである。

 さらに、巨大分子に対応できる構造最適化アルゴリズム“L-BFGS法”や、特定の元素の位置だけを極小化する機能を組み合わせることによって、たん白質の大きな構造を効率良く極小化することができる。

 そのほか、ペナルティ関数を利用した構造最適化計算機能も装備。たん白質のX線構造データは測定誤差に起因するひずみを内包するケースが多く、分子シミュレーションにかけるために精密化の作業が必要になる。ただ、通常の量子化学計算では、たん白質の複雑なエネルギー面に影響されてしまい、最適化した構造がX線構造と大きく食い違ってしまうことがあるなど、精密化作業は難しかった。これに対し、MOPAC2009の構造最適化機能は、MOPACの生成熱にX線構造からの変異をひずみエネルギーとして加えた目的関数を用意することで、X線構造を再現しながらエネルギー的に安定な構造を探索できるようにした。

 価格は、永久ライセンスで企業向け65万6,250円、官公庁向け32万8,125円。5CPUライセンスもあり、そちらは131万2,500円と65万6,250円。年間サイトライセンスは、同じく131万2,500円と65万6,250円。MOPAC2007の既存ユーザーは半額でバージョンアップできる。なお、教育機関での利用は無償となり、直接開発元からライセンスを取得する必要がある。