アクセルリスが材料系「Materials Studio」の最新バージョン5.0

並列化など計算エンジン機能強化、非晶性モデル作成容易に

 2009.10.31−アクセルリスは、材料設計のための統合モデリングシステム「Materials Studio」の最新バージョン5.0をリリースした。計算エンジンの性能を大幅に向上させたほか、操作性も改善され、研究者のためのインフォームドデシジョン(情報に基づくより良い意思決定)を強力に支援することが可能。触媒やポリマー、特殊化学品、機能材料製品などの研究開発において幅広い問題解決に力を発揮する。

 Materials Studioには、大きく分子力学系と量子力学系の計算エンジンが搭載されているが、今回の最新版5.0では分子力学系のシミュレーションプログラムである「ForcitePlus」と、粗視化シミュレーションを行う「Mesocite」が並列化された。さらに、64ビットの巨大なメモリー空間を活用することにより、大規模で複雑な系を実用的な時間で解析することが可能。ベータ版を評価したプロクター・アンド・ギャンブルでは、128プロセッサーの並列環境で成果をあげたという。

 また、量子力学系エンジンでも、密度汎関数法(DFT)の「Dmol3」について、振動モードの計算負荷が大きかったため、この部分の並列処理性能を改善している。数千原子レベルの大規模DFT計算を実行する「ONETEP」も、そのパフォーマンスが3−10倍に改善されており、かなり実用域に近づいたため、アカデミック領域で関心が高まってきているという。

 さらに、量子力学系で注目されているのが、「CASTEP」を使ったラマンスペクトルの予測が可能になったこと。これは、DFTに基づいた第一原理平面波・擬ポテンシャルプログラムで、人気が高く利用者も多い。精度の良さはもちろん、結晶系に対応したことが最大の特徴で、実際に測定したラマンスペクトルと比較検討することで、無機物を含む材料評価に役立つという。ベータユーザーの評価では、PQコーポレーションが実際の大型ケイ酸塩結晶のラマンスペクトルで実験値との一致が得られ、各種複合材料の分子構造の特定・理解・予測に非常に役立つとコメントしている。また太陽誘電も、さまざまな絶縁体に関して、実験に匹敵する価値ある情報を得ることができたと述べている。

 その他の機能強化では、低分子やポリマーの非晶構造を作成する「Amorphous Cell」の操作性が大幅に向上した。複雑な凝縮相モデルを素早く簡単に構築することが可能。ナノチューブ内部のような等値面に分子をパッキングしたり、自由にカスタマイズしたねじれなど分子に柔軟性を持たせてポリマーをセルにパッキングしたりすることが容易に行える。こうしたアモルファス状態のモデルは、複雑なものは一日がかりの作業になることも珍しくなかったようだが、新しいAmorphous Cellでは数分の単位で作成できるという。ベータユーザーの評価では、米国陸軍研究所が半導体表面およびナノ粒子へのポリマーの接着に関する研究に役立つとコメントしている。

 一方、ナノテクノロジーコンソーシアムのメンバーだけに先行リリースされる新機能として、新規モジュールの「Kinetix」が提供される。原子論的シミュレーションと反応工学のギャップを埋める機能を持っており、キネティックモンテカルロ法を利用して最大分単位のタイムスケールで、不均一触媒などの表面での現象をシミュレーションすることが可能。接着やコーティングなどの分野にも適用できる。

 また、QM/MM法の「QMERA」でゼオライトのような大規模な系の反応遷移状態を解析できるようになったほか、密度汎関数タイトバインディング法の「DFTB+」も機能強化され、複合ポリマーなどのバンド構造計算が可能になった。