菱化システムが統合計算化学システム「MOE」最新版

薬物分子構造の母核置換、MD応用でたん白質ループ構造の配座探索も

 2009.12.08−菱化システムは、加ケミカルコンピューティンググループ(CCG)が開発した統合計算化学システム「MOE」の最新バージョンを国内で本格的にリリースした。たん白質の配座を効率的に探索する機能や、たん白質の活性ポケット内での薬物分子構造の設計に役立つ機能など、さまざまな新機能を搭載。また、GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)が刷新され使いやすさが向上したほか、最新のグラフィックプロセッサー(GPU)の機能をフル活用し、フォトリアリスティックな分子モデルをリアルタイムに表示できるようになった。

 MOEは、たん白質構造解析、化合物ライブラリーの設計、インシリコスクリーニングなど、創薬・生命科学研究に必要とされるアプリケーションを統合した計算化学ソフト。扱いやすい独自の“SVL言語”を利用した開発環境としても優れており、最近では外部の計算エンジンと連携させた統合プラットホームとしての性格も強くなってきている。

 今回の最新版「MOE 2009.10」は、1997年に初めて製品化されて以降、13回目のバージョンアップに当たる。とくに注目される新機能は、薬物分子構造の母核置換機能。たん白質と相互作用している置換基部分を固定して、それに適合する別の母核を検索することが可能。母核から置換基への結合方向をベクトルで指定したり、ファーマコフォアや受容体形状といった条件を追加したりして検索することができる。環縮合や環化を考慮することもでき、検索結果は自動的に置換基と結合されて、合成に適しているかどうかをスコア付けする機能も持つ。

 これは“合成可能性スコア”と呼ばれ、逆合成の考え方で結合を切断したりヘテロ環を開環したりすることで分子構造をフラグメントに断片化し、フラグメントデータベースと照合することによって合成可能性を算出している。文献や試薬カタログに収載された約180万化合物から逆合成して得られたフラグメントをベースにしているという。自社化合物をもとにしたフラグメントをデータベースに追加することも可能だ。

 次は、分子動力学法(MD)を利用して安定配座を探索する“LowModeMD”(低モードMD)。これは、分子内での結合の振動モードを解析し、モードの低い結合パラメーターを変動させる初速度を与えたMD計算を行うもので、効率良く多様な安定配座を発生させることができる。低モードが二面角に対応していることに注目し、原子に初速度を与えることで積極的に二面角を変化させて幅広い配座空間を探索するという仕組みである。低分子はもちろん、たん白質のループ構造や大環状分子、多成分系や拘束を含む系に有効である。

 主鎖に大きなループ構造を持つストレプトアビジンの解析例では、1,500回のLowModeMD計算(約1日の計算量に相当)で、通常のMD計算750ピコ秒分(1週間の計算量に相当)を大きく上回る計算結果を得ることができたという。(写真参照)

 一方、今回の最新版では高品質な3次元グラフィックスが可能になったことも注目される。光や影の効果を付与して物体にリアルな質感を与えるレイトレーシング演算をGPUの並列パイプラインを利用して行うことで、これまでは静止画でしか表現できなかった美麗な分子モデルをリアルタイムに動かすことが可能。GPU上で動作する独自のピクセルシェーダーを開発しており、グラフィック描画能力をこれまでの50倍に高めたという。

 被写界深度表現の導入や漫画的な効果を与えるスケマティック表現なども可能で、出版物や学会発表向けなどに専門のグラフィックソフトで作成していたような高品位な画像を、MOEから直接出力できるようになった。