1998年春CCS特集:第1部 総論

国内市場が停滞、広がる欧米との格差

 1998.03.20−CCS(コンピューターケミストリーシステム)展が、3月27日(金)から29日(日)までの3日間、京都府京田辺市の同志社大学・田辺キャンパス(最寄り駅・JR学研都市線同志社前駅あるいは近鉄京都線興戸駅)を使用して開催される。国内の主要ベンダーが一堂に会して、最新システムの展示・実演を行う。時間は午前10時から午後5時まで。同時開催のCCS出展社セミナー、日本化学会付設展示会と合わせて入場は無料。今回のCCS展は、日本化学会第74春季年会と併催の形となるため、CCS技術を幅広く紹介し、研究者間に浸透・定着を図る機会になると期待される。

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 CCSは、化合物の情報管理や分子のモデリング、計算化学/分子シミュレーション、化学情報データベース、遺伝子・アミノ酸の配列解析など、有機、高分子、結晶、触媒、機能材料、医薬・農薬、バイオテクノロジーといったさまざまな研究開発を支援する多様なシステムから構成されており、最近ではインターネットブームやパソコンの急激な普及を背景に利用者層がますます広がってきている。

 CCS展は、内外の最新CCS製品が一堂に会する国内唯一の展示会であり、今回も最新システムの競演が見どころ。とくに、今回は各社とも新しい製品の出展が目立つ。

 これは、昨年のCCS市場動向とも関係がある。CCSnewsの推定によると、1997年の国内CCS市場規模は、サーバークラスのハードウエア、関連サービスを含めて約156億円で、わずかながら約1%の前年マイナスとなった。ここ数年は順調な拡大ペースを描いていたが、ここへきて頭打ちとなった印象だ。

 1つの要因としては、これまでのCCS市場を引っ張ってきた欧米の大手ベンダー、つまり米MDLインフォメーションシステム、米モレキュラーシミュレーションズ(MSI)、英オックスフォードモレキュラーグループ(OMG)といったベンダーの製品が伸び悩んでいるという事実がある。これらに関しては国内需要がほぼ一巡しているところに、目立った新製品がこの1年間に投入されなかったため、ユーザーの投資意欲を十分に刺激できなかった。

 なかでも国内で最大勢力を誇るMSIグループの伸び悩みが顕著であり、代理店間での価格競争もみられたことから、利益的には苦しい1年になったようだ。国内市場の中で、MSI系のベンダーの売り上げは合わせて65%程度を占めており、全体に与える影響が大きい。

 このため、MSIを含む大手ベンダーの製品以外のアイテムで販売を拡大できなかったところは、売り上げを減少させた。逆に言うと、新しい製品を持って来ない限り売り上げを伸ばせない状況になっている。こうした状況は将来に変化する可能性もあるが、市場が海外製品に寡占され、国内でのソフトウエア開発が停滞している現状を考えると、いましばらくはこうした傾向が続きそうだ。

 医薬品向けCCS分野でコンビナトリアルケミストリー/ハイスループットスクリーニング(HTS)やバイオインフォマティックスなど新しい市場が注目されているものの、実績をあげているのは特定のベンダーだけで、市場全体を押し上げるインパクトには乏しいと言わざるを得ない。

 また昨年は、新しいCCSの利用環境としてイントラネットがクローズアップされた年でもあったが、これも実際の需要に結び付いていない。日本経済全体の景気後退の影響も大きいと思われるが、「イントラネット環境といっても、CCSとしてできることは同じ(機能は変わらない)であり、ユーザーの興味を引き付けられない」という指摘もある。

 しかし、インターネット/イントラネット環境でウェブ技術を利用することによって、計算プログラムやデータベースなどのCCSの各種リソースへのアクセスが容易になり、開発効率が高いことや利用人口を大幅に拡大できること、研究のコミュニケーションが円滑化され、ワークフローの改善につながること、システム管理に要するコストといったいわゆるTCO(総所有コスト)削減につながることなど、魅力ある提案は十分に可能だと思われる。

 コンピューター業界全体の動きをみても、クライアント/サーバー型からイントラネット/エクストラネット型へのシフトが大きな流れとなっており、ウェブ技術の採用で利用者の裾野を広げることができれば、現在の閉塞(へいそく)状況を打破するきっかけになるだろう。

 もうひとつ懸念されるのは、CCSの有効性に関して厳しい見方が存在するということである。確かに、現在のCCSが新薬や新材料の開発に対して劇的な貢献をするという性質のものではないのは明らかだ。研究開発を推進するうえでの重要な判断材料のいくつかを提供することはできるが、決して魔法の杖ではない。分子のいろいろなミクロの特性をシミュレーションで予測することはできても、それが最終的な薬理活性や材料特性に直接つながるわけではない。

 こうした一種の懐疑心が、景気後退で情報化投資を抑えようとする傾向が強まる中で、CCSに対するマイナスの影響としてあらわれてきているのが現状だともいえるだろう。しかし、一方で海外の状況に目を転じると、1997年に国内では伸び悩んだMDL、MSI、OMGなどの大手ベンダー各社とも欧米では順調な成長を遂げている。つまり、欧米のユーザーはCCSへの投資の手をゆるめてはいないわけだ。このままでは、日米の格差はますます広がる恐れがある。

 一般的にも、米国経済が復活したのは情報システムへの投資が大きな要因だったという見方もあり、情報化投資の切り捨てには重大な危険が潜んでいると認識しなければならないだろう。同時に、CCSベンダー側も劇的な効果をもたらす画期的システムの開発にますます励むべきだろう。