1998年春CCS特集

国家プロジェクト「高分子材料設計プラットホーム」4月からスタート

名古屋大学・土井正男教授(プロジェクトリーダー)インタビュー

 1998.03.20−今回のプロジェクト「高機能材料設計プラットホームの開発」では、やりたいことが大きく言って二つあります。まずは、メソ領域のシミュレーターを開発することです。これは、先導研究「計算機材料設計」での論議を通じてもはっきりと認識されたことですが、分子軌道法で電子状態をいくら計算してもそれだけでは高分子の材料特性はわからないことがたくさんあります。現在、こうしたミクロ領域の計算化学技術も大きな分子の系を扱う方向に発展しつつはありますが、その延長線上では限界があるでしょう。メソ領域を扱う新しい理論が必要なのです。

 実は、物理系の世界の人たちは早くからメソスケールに注目していたという事実があります。この分野ではいろいろな情報を捨てて本質的なところだけを取り出すことが重要なのですが、そうした計算が行われてきました。しかし、時空間がメソスケールまで飛躍してしまいますと、もはやミクロの世界の分子の姿は見えないんですね。それで、物理の人たちは分子レベルの事柄を無視します。

 ところが、高分子を考えてみても、最初はモノマーがポリマーになり、最終的に材料になっていくわけですから、ミクロの世界を無視してはいけないと思います。これが、本プロジェクトでやりたいことの二番目です。つまり、ミクロとメソ、あるいはマクロとメソといった階層の間の関係をしっかりと考えていくということです。

 今回は、ミクロからマクロまで五つの階層を設定して、その間をシームレスズーミングでつなごうとしていますが、これは時間・空間で10の15乗離れた天文学的なスケールを扱う問題ですから、本当にシームレスにつなげるのは正直なところ難しいでしょう。ただ、理論は次々に出てきますから、そうしたものをどんどん取り込んでいける仕組みをつくり上げておきたいと思っています。

 今回、新化学発展協会の高分子ワークショップの気心の知れた仲間を中心に15名が集まってくれることになりました。研究する環境としてこれほど心強いものはありません。あとは、部屋をどこにするかという問題だけでしょうか(笑い)。