CCS特集:土井プロジェクトレポート1
1999.03.20−通産省工業技術院の大学連携型産業科学技術研究開発制度による「高機能材料設計プラットホームの開発」(通称・土井プロジェクト)が進行している。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から化学技術戦略推進機構(JCII)が委託を受けたかたちで名古屋大学内に集中研究拠点が設けられ、名大・土井正男教授以下約20名の体制で研究が実施され、今年の9月末には一通りのプログラムが完成する予定だ。本紙では、同プロジェクトの発足前から動向を継続的に追っており、今後もCCS特集の中でプロジェクトの進行状況を報告していきたい。
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土井プロジェクトは、機能性高分子材料を設計するためのCCS技術を新しい理論・発想で具現化しようというもので、最前線の新計算理論をプログラム化して盛り込むとともに、将来に出現する新しい手法を柔軟に取り込んでいけるプラットホームづくりをも狙いに入れている。
具体的には、粗視化分子動力学法、動的平均場法、分散構造シミュレーション法の三種類の計算エンジンを開発し、それらを一貫したプラットホーム上で動かすことが目標である。
土井教授は、「研究員の熱意に支えられて非常に順調だ。計算エンジンは、C++などのオブジェクト指向技術で基本設計からつくり直しており、汎用性・柔軟性・発展性に富んだプログラムになると思う。3つともこの9月末にはαバージョンが完成する。ウィンドウズ系でつくっているグラフィック環境と合わせて来年3月にはプロジェクトの参加企業に渡せるだろう」と話す。
粗視化分子動力学では、問題の時間・空間スケールに応じた高分子鎖のモデル化手法をいくつか用意しており、高分子の単位構造を球体で表現するモデルを使って、溶融状態から温度を下げて配向して結晶化する現象を再現することに成功した。また、高分子の主鎖を管として表現するモデルでは、粘度や弾性率など成形性を左右する重要物性の予測に取り組んでいる。
動的平均場法は、高分子の複雑な相互作用を“平均場”としてモデル化する考え方で、2成分のブレンドやブロックコポリマー化などの条件下で、高分子の集合状態がどのように変化・発展し、構造化が行われるかを確かめている。
一方、分散構造シミュレーションでは、高分子ゲルの膨潤と収縮によるバンブーパターンの形成、液滴の変形と回復、電場による構造変化などのシミュレーションを実施し、ある程度の成果を得ている。
土井プロジェクトとしては、今月の米物理学会(APS)で学会発表を行う予定。研究内容は世界を先取りしたものが多く、反響が期待される。