CCS特集:国家プロジェクト動向

通産プロジェクト=土井プロジェクトレポート2

 1999.11.20−通産省プロジェクトの「高機能材料設計プラットホームの開発」(通称・土井プロジェクト)は、名古屋大学での集中研究に入って2年目を迎え、プログラム開発が佳境にさしかかっている。機能性高分子材料を設計するためのCCS技術を新しい理論・発想で具現化しようという目標のもとに、世界の先端を行く計算エンジンとそれらを統合するグラフィック環境を合わせて開発中。高分子材料のメソスケール(ミクロとマクロをつなぐ中間領域)をシミュレーションできるユニークなエンジン群は、来年の3月末にはプロジェクトの協力大学や参加企業に提供され、評価・検証が進められる予定だ。

 高分子材料に関しては、単分子あるいは分子集合体(周期境界条件を用いる)を分子動力学法でシミュレーションすることができる。また、成形材料として加工する際の挙動は工学的な問題として扱うことができ、温度・圧力・応力などを有限要素法で解析することが可能。いわば、分子レベルから現実レベルまで一気に飛躍しているわけで、その間に計算理論としてのつながりはない。

 そこをメソスケールの新しいシミュレーション理論でつなぎ、広大な時間スケール/空間スケールを自由に“ズーミング”して材料開発に役立てようというのが土井プロジェクトの最終目標である。

 プロジェクトを率いる名大の土井正男教授は、「ここへ来て、プラットホームの形が明確にみえはじめてきたように思うし、研究および開発は順調だ。ただ、今年度は基礎工事をしっかりやる段階だと考えている。とくに、計算エンジンは最初の段階で学問的にもきちんとつくり込んでおかなければならない」と強調する。

 具体的には、高分子をひもやセグメントの集まりとみなしてシミュレーションする粗視化分子動力学(パーティクルダイナミクス)、平均場近似に基づいて高分子の自己組織構造の形成過程や界面吸着などの問題を扱う動的平均場法(インターフェーシャルダイナミクス)、サスペンジョンやエマルジョンなど均一の連続体からなる多相系を扱う分散構造シミュレーション法(コンティニュアムメカニクス)−の3種類の計算理論がエンジンとなる。

 いずれも、世界的にもほとんどプログラム化されたことがない理論で、今年の春に米国物理学界で発表を行ったときも、会場からは理論面の話題よりもそのプログラムが入手可能かどうか、またその条件は何かなどの質問が殺到したという。

 「来年度からは、外部でいろいろな問題に適用してエンジンを検証してもらう一方で、3エンジンが個別に扱っている領域を結ぶズーミング技術の開発に着手する」と土井教授。例えば、動的平均場法で得られた計算結果をパラメーターとして粗視化分子動力学を駆動させるといったアプローチが取られるようだ。

*土井プロジェクトは新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から化学技術戦略推進機構(JCII)が委託を受けたかたちで実施されている。