CCS特集:モデリング/ケムインフォマティクス関連

ナノシミュレーション

 2000.03.20−ナノシミュレーションは、分子動力学計算(MD)を専門とする特異なソフトベンダー。とくに、液晶およびポリマー分野に対象を絞って、独自のノウハウで開発した「NanoBox」の応用展開を進めている。ここへきて、具体的な研究成果に結びつき始めたことで、プログラムへの需要も増加。今回、プラットホームとして人気のLinuxをサポートし、さらなる拡大を目指している。

 同社は、MDを使って液晶デバイスの応答速度に関係する重要な材料物性である“回転粘度”をシミュレーションで求めることに世界で初めて成功した。液晶材料の大手メーカーである独メルク社との共同研究で実現したもので、実験データなどはメルクから提供されたが、計算自体は同社が単独で行った。

 液晶分子の物性の中でも、誘電率や屈折率の異方性などは分子軌道法による孤立分子系の計算である程度予測することができるが、今回求めた回転粘度をはじめ、フランク弾性定数や相転移温度などの物性値を予測することは分子集合体を扱えるMDによるシミュレーションが適している。しかし、それを実際に行うのは非常に難しく、今回の回転粘度も関係のありそうな物性値を計算してその関連から推測する研究事例はあったが、直接のMD計算でズバリ求めた事例は世界でも初めてだった。

 というのも、MDは学問的にも発展中の計算手法であり、とくに材料分野への応用では力場のパラメーターづくりなど難しいポイントが多く、現状では使い手を選ぶ理論だともいえるため。このため、同社では学術レベルでのコンサルティングや技術サービスの提供に力を入れており、ユーザーのニーズに応じてプログラムをつくり込むケースがほとんど。ただ、今回の成果で液晶分野でのアプリケーション展開に弾みがつきそうだという。