工技院物質研のスペクトルDB

世界中からアクセス急増

 2000.01.21−通産省工業技術院物質工学工業技術研究所が1982年から構築を続けてきている化学物質のスペクトルデータベース(DB)「SDBS」が世界中で評判になっている。97年から本格的にインターネットで公開(http://www.aist.go.jp/RIODB/SDBS/)したところ、研究者の間に徐々に口コミで広がり、昨年になって利用数が急増。アクセス総数は400万件を越えた。工技院は「RIO-DB」の名称で各研究所が蓄積した30数種類のDBを公開しているが、多いときには全体のアクセスの60%がSDBSに集中することもあるという。9割近くが海外からのアクセスであり、とくに米国からが約半数を占めている。

 SDBSは、赤外線4万7,300件、13C−NMR1万1,000件、1H−NMR1万3,500件、質量1万9,600件、電子スピン共鳴(ESR)2,000件、ラマン3,500百件−の6種類のDBから構成されている。3分の2が有機化合物で、一般試薬が中心である。

 最大の特徴は帰属のついた化学構造式が含まれていることで、スペクトルパターンの出力ができるなど、ビジュアル面にも訴える内容となっている。全体を共通の化合物辞書で管理しているため、複合検索によって知りたい化合物の絞り込みが行えるのも特徴。

 これまでは、基盤技術研究促進センターを通してパソコン用のCD-ROMとして頒布されてきたが、96年度から工技院全体の研究情報公開プロジェクト「RIO-DB」がスタートしたのにともない、SDBSもインターネット上で無償で利用できるようになってきた。

 とくに目立つのが海外からの利用者だ。世界65ヵ国以上からのアクセスがある。多いのは米国だが、これは大学などの授業で利用されているため。英国の放送大学の中でこのサイトが紹介され、学生が多数アクセスしてきた例もあったという。SDBSの責任者の早水紀久子博士は、「インターネットは知識の宝庫。欧米の教育機関はそれを十分に活用している。日本の大学からももっと利用が増えてほしい」と訴える。

 世界的にもスペクトルDBを無償公開しているサイトはほとんど存在せず、「米国商務省標準技術研究所(NIST)が質量スペクトルを公開している程度。ドイツには商用のサイトがあり、データ量は豊富だが、高価だし、検索機能はSDBSの方が上だと思った」という。欧米の教育機関からアクセスが殺到するのもうなずける。

 早水博士は「DBは継続性が一番大切」だと強調する。海外からの評価が高いSDBSが今後も発展していくことが期待されよう。