米MDLが化学情報管理システムISISのアーキテクチャーを刷新へ

ORACLE完全対応、3層アーキテクチャー盛り込む

 2000.04.06−ケムインフォマティクス分野のコンピューターケミストリーシステム(CCS)最大手ベンダーである米MDLインフォメーションシステムズは、統合化学情報管理システム「ISIS」のアーキテクチャーを順次刷新する計画を明らかにした。リレーショナルデータベース管理システム(RDBMS)の業界標準であるORACLE8iの“データカートリッジ”技術に完全対応させ、現在のクライアント/サーバー型からウェブ分野で標準的な3層アーキテクチャーに切り替えていく。今後、1−2年かけて移行への準備を整えていく方針だ。

 MDLは1980年代に「MACCS/REACCS」、90年代に「ISIS」と、化学DBシステムで一貫してリーダーの地位を保ってきた。化学者が慣れ親しんでいる構造式で情報検索ができるため、世界中の研究者の大きな支持を得た。ただ、ISISを91年に発売してからすでに10年近くがたっており、その間にIT(情報技術)環境も大きく変化してきている。

 ISISのアーキテクチャー刷新に関しては、昨年末からサン・マイクロシステムズのソラリスオペレーティングシステムをサポートしたこと、また今年に入ってオラクルのデータカートリッジに対応した新クライアント「ISIS/Direct」を発表したことの二つが、重要な布石となっている。

 かつてのMACCSはデータ構造もリレーショナル型ではなかったが、ISISもその時代の資産を色濃く引き継いでおり、MACCSのDBをダイレクトにアクセスすることができた。当時のマイグレーションパスとしてはその機能は必要だったが、いわばMACCSの端末をウィンドウズベースとし、システムアーキテクチャーをクライアント/サーバー型に変えたものがISISだったということになる。その後、RDBMSのオラクルを使って各種データをリレーショナル型で管理できるようにしたが、ISIS最大の売り物である化学構造式に関しては依然として旧MACCS形式で取り扱われていた。

 つまり、ISISのクライアント画面には、オラクルから読み出した物性や書誌情報などの各種データと、旧MACCS形式の化学構造式とが同時に表示されていたわけだ。この場合に新規データを入力すると、2種類の異なるDBシステムに同時にデータが書き込まれることになる。MACCS/ISISとオラクルとのセキュリティレベルや機能の違いもあり、その際に不具合が生じる恐れもあったという。また、ユーザーのIT部門にとっては、オラクルだけでなくMACCS/ISISの知識も求められるという問題があった。

 そこでMDLは、構造式も含めて全データをオラクルのリレーショナルテーブルで管理するRCG(リレーショナルケミカルゲートウエイ)を98年に開発した。現在のISISクライアントでもRCGにアクセス可能ではあるが、今回のISIS/Directはデータカートリッジを使ってこのRCGに直接アクセスするための技術であることがミソ。これにより、ISIS全体が完全にオラクル準拠になったわけで、クライアント環境はISIS独自のものだけではなく、ユーザーが自由に開発することが可能になった。例えば、マイクロソフトのCOM(コンポーネントオブジェクトモデル)を使えばウィンドウズベースのクライアントが開発でき、Javaで開発したクライアントでも、あるいはMDLのChemScapeを利用してウェブブラウザーベースのクライアントをつくることも自由に行える。

 ただ、現時点ですぐに完全移行はできない。 ISIS/Directのいまのバージョンでは、これまでのISIS独自クライアントの機能をまだすべてサポートしていないのである。例えば、反応検索ができないし、新規のデータ入力もできない。可能なのは化合物の構造検索だけであり、MDLでは1−2年をかけて完全移行ができるように機能を追加していくとしている。とりあえず、年末にはデータ入力が可能になるようだ。

 ISIS/Directのメリットとしては、オラクルとの統合により、ユーザーが自社のアプリケーションにISISの機能を組み込むなどの開発が自由に行えるようになることがあげられる。また、パフォーマンスが向上することやクライアントをローコストで開発できるなどの利点があるという。

 MDLでは、旧ISISのDBファイルをRCGに移行させるDB変換サービスを無償で提供する。しかし、ユーザーがISIS/Directでクライアントを運用するには、新たにISIS/Direct対応のクライアント用ライセンスを購入する必要がある。もっとも、そのライセンス料金は以前のクライアントよりはかなり安いようだ。

 一方、ISIS新アーキテクチャーのもう一つの特徴は、3層アーキテクチャーを導入した点にある。3層アーキテクチャーはインターネットで標準的なスタイルで、ORACLE8iも当然これに準拠している。これは、ユーザーインターフェースを提供するクライアント層、ビジネスルールを盛り込んだアプリケーション層、バックエンドのデータベース層の3層からなり、各層間はCORBAなどの分散オブジェクト技術で通信を行うというもの。レスポンス、パフォーマンスが高く、スケーラビリティーに優れているということで、世界的にかなり普及してきている。

 最近、MDLが提供しているアプリケーション製品もこのアーキテクチャーに準じており、例えば研究に最適な試薬を選択する「リージェントセレクター」の処理ロジックは中間のアプリケーション層に記述されており、必要に応じてDB層のISISのテーブルを参照しにいくという形になっている。クライアントはJavaで開発された。試薬発注システムの「SMART」の場合も同様だが、ウェブブラウザーがクライアントとして働くように開発されている。

 今後、化学・製薬産業のビジネスの中にいろいろな形でeコマースがかかわってくると考えられるが、そうしたシステム構築においてISISの機能をアプリケーション層にビルトインする事例も多くなってくるだろう。

 このように、アプリケーション層およびDB層をドライブするサーバーコンピューターには、ウェブアプリケーションでの実績やオラクルとの親和性の高さが求められる。この要求にかなうマシンがサン・マイクロシステムズであり、今後はサンがISISのメインプラットホームになると考えられる。