米トライポス:マッカリスター社長インタビュー

事業構造を再編・成長期入りへ、コンサルと受託研究事業を重点育成

 2001.03.07−コンピューターケミストリーシステム(CCS)の大手ベンダー、米トライポス社は事業構造の再編を完了し、新たな成長路線に乗った。新薬開発を幅広い側面と多様な角度から包括的にサポートできる体制を築いている。ジョン.P.マッカリスター社長兼CEOは、「ソフトウエア事業、化合物販売事業、コンサルティング事業、受託研究事業−の4部門がようやく固まった。長年の実績のあるソフトウエア技術を基盤にしながら、今後はコンサルティングと受託研究を伸ばし、3年後にはこれらで売り上げの半分以上を占めるようにしたい」と話す。同社の強みと新戦略について聞いた。

  ◇  ◇  ◇

 ●最近の業績はいかがですか?

 1999年と2000年は売り上げは伸び、1999年が2,724万9,000ドル(前年比6.6%増)、昨年は2,902万4,000ドル(同6.5%増)となったが、それぞれ228万9,000ドルと204万9,000ドルの赤字を計上した。

 これはコンビナトリアルケミストリー/ハイスループットスクリーニング(HTS)で利用する化合物を製造販売するための事業への投資が、おもに影響したものだ。英国にあるファインケミカルメーカーのレセプターリサーチ社を買収した(1997年11月発表)わけだが、この企業は最初は6人だったのを80人まで増やしたし、新しい建物や設備などにも1,300万ドル投資してきた。大量の化合物を管理するための情報システム「ChemInfo」の構築にもかなりの費用をかけた。

 しかしながら、これらの投資が功を奏し、ようやく昨年の第4・四半期(2000年10月−12月期)からは利益の出る体質に変わってきた。この四半期は売り上げも前年同期比35.8%増の1,284万8,000ドルと伸びが大きかったし、純利益は10倍以上の240万6,000ドルだ。今年はすでに1,600万ドル以上の受注残があるし、ビジネス的にも飛躍の年になると期待している。

 ●トライポスの事業内容も大きく変わってきましたね。

 新薬の研究開発(R&D)を総合的に支援したいという考え方は変わらないが、そのカバーする範囲が広がった。CCS関連の各種ソフトウエアはいわば基礎技術であり、現在も売り上げの70%を占めている。それに加えて、トライポスレセプターリサーチのケミカルビジネスの体制が整った。IT(情報技術)とケミカル技術を基盤として、これから伸ばしたいのがコンサルティング事業と受託研究事業である。

 コンサルティングは、特定のユーザーにベストマッチしたR&D支援システム環境を構築するためのシステムインテグレーション(SI)サービスを中心にする。その基盤技術が“メタレイヤー”だ。インターネットを含めたあらゆるシステムやデータベース(DB)を統合するミドルウエア技術で、コンビケム/HTSおよびバイオインフォマティクスを通して研究で扱うべきデータ量が爆発的に増大しているなかで、きわめて重要な位置付けにあると思う。

 実際にシステムを組み上げるためのコンポーネントは、SYBYLなどのCCSパッケージソフトが多数揃っているし、イントラネット環境を望むならCHEMenlightenといったツールもある。

 一方の受託研究事業は、具体的に目標を決めて新薬開発の一部を当社で請け負い、実際の研究成果をフィードバックしようというものだ。ITとケミカル技術の両輪がグレードアップされたので、これからはもっと良い結果を出すことができ、急速に拡大すると期待している。

 日本では、総代理店の住商エレクトロニクスに窓口になってもらい、やはりこれらの事業を伸ばしたいと思う。すでに国内のユーザーから研究プロジェクトを一件受注した実績もある。

 ●そうすると、米ファーマコピアが最大のライバルになると思うのですが、トライポスのアドバンテージは何ですか。

 ファーマコピアはCCSベンダーのモレキュラーシミュレーションズ(MSI)やシノプシスなどを次々に買収しているが、まだ十分に組織が融合していないのではないか。われわれはすでにITとケミカルが緊密に組み合わさった体系を築き上げている。システム面でも、サービス面でも統合ができている。

 また、ファーマコピアのライブラリーが混合物であるのに対し、われわれのものは純粋な化合物だ。混合物だと、スクリーニングでヒットが得られても、どの化合物が活性を示したのか、あるいは複数の化合物の相互作用で活性が出たのかを判断するのが難しい。得られたヒットをフォローアップする際にも、ユニークな特許技術“ChemSpace”を持っていることが当社の強みだと思う。

 とくに、これからの新薬開発のカギはインフォマティクスだ。インフォマティクス技術を駆使する点では、われわれの方が経験が長い。

 ●昨年は、バイオインフォマティクスの有力ベンダーである独ライオン・バイオサイエンスとの資本提携も話題になりましたね。

 新薬R&Dを効率的に進めるためには化学と生物学の両方の知識が必要だ。合成した候補化合物を実際の生体のターゲットでスクリーニングできれば、それはまさに理想的な研究環境だといえるだろう。その第一歩として、まずはDNAシーケンスのターゲット遺伝子にふさわしい化合物ライブラリーの構築が直接行えるようになることを狙っていきたい。これに興味を示したのがトライポスとライオンの共通の顧客だったバイエルで、昨年10月に総額2,500万ドルの共同プロジェクトとして受注している。

 かねてより、トライポスとしても分子生物学分野のパートナーが欲しかったわけで、それぞれの利益が一致したということだ。その創設者の1人とライオン設立以前からの個人的な知り合いだったという理由も大きかったかもしれない。

 ●ライオンは、トライポスの株式の約10%を所有している勘定ですが、今後両社の関係はどうなりますか。

 今回のバイエルとの仕事のように、プロジェクトベースでの業務提携が多くなるだろう。ケムインフォマティクスとバイオインフォマティクスを統合した新しいソフトウエアを共同開発する計画もあるが、いくつものプロジェクトを遂行していくなかで徐々に形づくられてくるものだと思っている。

 また、ライオンからの出資に関しては何の条件もないし、子会社になったわけでもない。トライポスも、フェーズワン社やアリーナファーマシューティカル社などに対して自由に投資を行っている。アリーナには300万ドルの投資をしたが、その後この企業はNASDAQに上場し、現在ではトライポスの有する資産価値は5,000万ドルに膨れ上がっている。

 ●最近、マイクロソフトのドットネット(.NET)構想など、ソフトウエアビジネスがパッケージソフト主体からネットワークでダウンロードするサービスに移行していくという考え方があります。サン・マイクロシステムズも同じことを言っています。CCSの世界でもソフトがサービス化していく可能性があるでしょうか。

 CCSはコンシューマー向けのソフトではなく、手厚い技術サポートが必要な製品だ。それに、現段階ではライセンス収入の面でペイできない可能性が高い。当分は考えられないのではないか。