CCS特集:総論

2000年市場23%の伸び、バイオインフォが牽引

 2001.05.25−コンピューターケミストリーシステム(CCS)は、医薬・農薬、遺伝子・バイオテクノロジー、ポリマー、触媒、結晶、半導体、液晶、電子材料、磁気・光学材料など、広く“物質設計”を支援する情報技術(IT)システムで、分子化学計算に基づく分子モデリング、データベース(DB)と解析技術を組み合わせたケムインフォマティクス/バイオインフォマティクスなどのさまざまなシステム群から構成される。最近では新薬開発を中心にしたライフサイエンス系のシステムに対する関心が高く、国のミレニアム予算などの関係でバイオインフォマティクスの需要が急拡大している。また、一時期の外国ソフト一辺倒の傾向がやや薄れ、輸入ソフトを組み込んだシステム開発が行われたり、国産パッケージの開発も一部で盛り返したりするなど、国内でのソフトウエアづくりも活気を取り戻しつつある。

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 2000年の国内CCS市場は、バイオインフォマティクスを中心に好調な伸びを示した。CCSnewsの推定による市場規模は約266億円で、前年に対して23%程度の成長をしたと推定できる。

 昨年度に大きく伸びたのは、ゲノム/バイオ関係の官公庁需要で、バイオインフォマティクス系のベンダーのなかには売り上げが1.5−2倍増というところも少なくない。バイオインフォマティクス分野ではソフトウエアは研究者が開発したフリーのものが多用され、DBも多くは公的なものであるため、それらをまとめ上げて統合するシステムインテグレーション(SI)ビジネスが中心になる。案件によっては、たん白質系の商用CCSソフトが含まれているケースもあり、ライフサイエンス系のモデリングベンダーもその恩恵を享受したようだ。

 また、昨年は民間のバイオインフォマティクス需要が立ち上がった年でもあり、大手製薬会社が社内にバイオ研究のITインフラを構築、海外のゲノム/プロテオーム関連の商用DBなどを相次いで導入しはじめている。

 民間では今後はすでに構築されているケムインフォマティクス系のシステムとの統合のニーズが出てきそうだ。創薬プロセスの情報基盤の統合と共通化が図られていくだろう。欧米では、バイオインフォとケムインフォのベンダー同士の提携や合併もはじまっており、今後大きな流れになると予想される。

 計算化学/分子シミュレーション系のシステムは目立った伸びはないが、とくに落ち込みもみられない。コンピューターの高速化と理論の発展により、着実に進歩してきている。ここ数年は、大学教育への分子モデリングの導入が進んできており、講座のなかで分子軌道法を用いて計算化学演習を行う大学が増えている。数年後にはCCSに親しんだ学生が社会に出てくると思われ、利用者の裾野の拡大につながるのではないかと期待されるところだ。

 CCSが登場してすでに20年以上になり、広く普及し始めてからでも10年を数えるようになったいま、CCSはもはや特殊な存在ではなく、研究活動における自然な道具の一つとして完全に定着したといえるだろう。

 1990年代半ばには国内のCCS市場は外国のソフト一色となり、それまでにあった多くの国産ソフトベンダーが姿を消し、国内ベンダーは輸入商社ばかりとなった。しかし、CCSが定着し、ユーザーの意識も少しずつ変化するなかで、商社系のビジネスも開発やサービスをともなう付加価値型へと変化しつつある。また、国内でのソフト開発の重要性が認識され、大学などでのプログラム開発が活発化。それを産業界に移転するためのいろいろな試みも起こりはじめるなど、この面での状況も変化してきている。CCS開発の技術を持つ大学や企業の先端研究者と、それをサポートして商品化するIT産業側との理想的な融合のスタイルを、いま一度あらためて検討し直す時期に差しかかりつつあるともいえそうだ。