富士通九州システムが癌研究所と人工たん白質設計ツール

マイクロ遺伝子重合法を用いた機能性たん白質創出に道

 2001.05.10−富士通九州システムエンジニアリング(FQS)は、財団法人癌研究会癌研究所の芝清隆博士らと共同で人工たん白質の設計支援システムを開発した。科学技術振興事業団(JST)の委託開発制度を利用して進めたもので、プロジェクトはこの3月末に完了した。芝博士が発明した“マイクロ遺伝子重合法”に基づいて、望ましい機能を持つ人工的なたん白質を合理的に設計することを目指している。システムはまだ開発段階だが、今後パートナーを募って実証研究を進め、将来的には製品化にこぎつけたい考えだ。

 ポストゲノム時代に、研究対象は遺伝子から遺伝子が発現してつくり出されるたん白質へと移りつつあるが、芝博士が提唱している「マイクロ遺伝子重合法を用いた人工たん白質創出法」は、既存の遺伝子資源だけにとらわれずに未開拓のたん白質配列空間を探索することによって、自由にたん白質を“設計”することに道をつける技術として注目されている。

 あらかじめ合理的に設計(ラショナルデザイン)されたマイクロ遺伝子を乱雑さを加えながら重合することで、簡単・迅速に分子多様性集団をつくり出し、その大量のライブラリーのなかから目的の活性を持ったたん白質分子を選び出してこようというもの。

 特定の狙いを持ってマイクロ遺伝子を設計することで、出来あがるライブラリーも目的とする機能に対して大きくバイアスのかかった多様性集団とすることができるため、確率の高い人工生体分子の創出が可能だと期待される。ちょうど新薬の探索研究で近年広く用いられているコンビナトリアルケミストリー/ハイスループットスクリーニング(HTS)に近いイメージでとらえることもできるだろう。

 この手法においては、マイクロ遺伝子をいかに設計するかがカギである。1つのマイクロ遺伝子ブロックが持つ複数の読み枠に同時に生物学的な意味を持たせ、そのなかに巧みに目的とする生物構造に関する情報を潜源化させなければならないのだという。このデザインプロセスを支援するのが今回のシステムということになる。

 マイクロ遺伝子の設計は大きく「発生」「進化」「選択」「淘汰」の4段階に分かれる。「発生」パートでは、特定のペプチド構造をコードするマイクロ遺伝子ブロックの可能なすべての配列を発生させる。例えば読み枠の1つが必ず“RIQRGPGRTFVT”という配列のペプチドをコードするといった条件を満たすDNA配列をすべて発生させることになる。

 次の「進化」パートでは、設計したマイクロ遺伝子の重合化のシミュレーションを行い、それぞれのDNA配列について読み枠がさまざまに組み合わさった重合体を発生させ、多様性に富んだバーチャルライブラリーを構築する。

 「選択」パートでは、ライブラリー内の仮想人工たん白質の性質を疎水性や類似性、2次構造、ペプチド頻度などのさまざまな要素を用いて判定・点数付けを行って、最後の「淘汰」パートでそれぞれの点数に適切なウエイトを割り振って、最終的にふさわしい遺伝子を選び出し、それに対応したマイクロ遺伝子を同定する。

 システム化に当たっては、「選択」パートでの判定モジュールの組み合わせ、また「淘汰」パートでのウエイト付けなどの基準設定に融通性を持たせることを重視したという。

 同社では今後、製品化を目指して実証研究をさらに進めることにしているが、将来的にはパッケージソフトとして販売するだけでなく、受託解析サービスなどのアウトソーシングビジネスにも結びつくのではないかと期待が大きい。