ナノシミュレーションがMD計算で液晶材料の基本物性の予測に成功
回転粘度、フランク弾性定数、相転移温度を巨大スケールシミュレーションで
2001.05.14−ナノシミュレーション(本社・千葉市、桑島聖代表)は、独自の分子動力学法(MD)ソフト「NanoBox」を利用して液晶材料の基本物性である「回転粘度」「フランク弾性定数」「相転移温度」を予測することに成功した。液晶素材の大手メーカーである独メルク社との共同研究ならびに単独の研究として実現したもので、実在の液晶分子を対象にMD計算でこれらの3物性を直接に求めた研究事例は世界でもほとんど例がないという。同社では、今後2−3年のうちには実際に合成する前に計算機実験を行うことが可能になるとしており、さらに計算で求められる物性を増やして実用性を高めていく考えだ。
同社は、MD計算を専門とするベンチャーで、とくに液晶分野を対象にしたソフト開発、コンサルティングサービス、共同研究などに力を入れている。
今回、シミュレーションした3つの物性は、基本的には計算量が膨大になり過ぎてこれまで実現していなかったもの。MDは、分子集合体のダイナミックな挙動を追跡するための手法だが、ミクロの世界を相手にするため、その時間ステップはフェムト秒単位であり、10年ほど前まではピコ秒スケールまでの計算が限界だった。1990年代半ばになると、1−2ナノ秒の計算が可能になるが、液晶分子の現実的な物性を求めるためにはそれでもシミュレーション時間が不足しているのが現状だった。
同社によると、回転粘度は2−3ナノ秒、フランク弾性定数や相転移温度を求めるためには10−20ナノ秒という巨大スケールの計算が必要になるという。これまでに抽象化したモデル分子を使った計算事例はあったが、実在の液晶分子を対象にした計算は初めてになるという。
回転粘度は液晶デバイスの応答速度に関係する基本物性で、シミュレーション自体には1年以上前に成功している。現在の最新のコンピューターを使うと、1つの分子を評価するサイクルが2−3日というレベルに達しており、ほぼ実用の水準に近づいてきたとしている。
一方、液晶分子がねじれる際の弾性エネルギーをあらわすフランク弾性定数は、3種類の物性値を1セットとして評価する必要があるため、現時点では1つを評価するのに約2ヵ月の計算時間が必要。同社が単独で研究している相転移温度(液晶の安定性に関係する)のシミュレーションも同様だが、今後2−3年のコンピューターの速度向上で実用域に到達すると期待できるという。
同社では、さらに次のテーマとして「アンカリングエネルギー」の予測に取り組んでいる。これは液晶分子とラビング処理した高分子膜との間の相互作用の強さをあらわしており、アンカリングエネルギーが高い材料は配向性に優れている。コンピューターによる液晶材料設計の実現に向けて、これからも予測可能な物性を順次増やしていく予定だ。