マイクロソフト「Tech・Ed 2001 Tokyo」基調講演

ドットネット時代へXMLウェブサービスの重要性が高まる

 2001.08.31−マイクロソフトは、8月28日から31日まで千葉県浦安市舞浜で恒例のデベロッパーズコンファレンス「Tech・Ed 2001」を開催。同社が社運をかけて推進している“ドットネット(Microsoft .NET)戦略”を国内の開発者に強力にアピールした。初日の基調講演では、阿多親市社長、マイケル・リッセGM(ゼネラルマネジャー)、デビッド・トレッドウェルGMがドットネットが引き起こすパラダイムシフトについて述べた。講演のなかでは、とくにXMLを利用したウェブサービスの重要性が強調された。

  ◇  ◇  ◇

 冒頭、阿多親市社長は、「現在のIT産業はリストラの真っ最中だが、企業向けのパソコン販売は比較的好調に推移している。新しい使い方を提案できれば、さらに需要は喚起されるはずだ」と述べ、ウィンドウズXPが開くドットネットの世界が企業や社会のインフラを変革させるという見方を示した。

 また、ウィンドウズ2000が短期間でカットオーバー可能な本当に使えるOSであるとしながら、「一方で当社のサポートは電話による応対やセミナーを通じた情報提供といったレベルにとどまっており、顧客と正面から向き合っていなかった」と認め、技術サポート体制を抜本的に見直すと言明。

 まず、ハードウエア面では「ウィンドウズデータセンタープログラム」を実施している。高い信頼性が求められる基幹業務システムにおいては、人間の手によるチューンアップが必要であり、ハードメーカーと協調してウィンドウズを含めたシステム全体をチューンし、14日間の高負荷テストを行ったうえで、ハードとソフトを一体化して提供していく。サポートも24時間/365日体制を敷く。現在、100台以上のウィンドウズ2000データセンターサーバーが稼働しているが、今後1年でさらに300−500台の販売を目指す。

 アプリケーション面では、OSとアプリケーションとハードウエアの組み合わせをあらかじめテストできる「ポーティングラボ」を開設した。あらかじめユーザー環境を再現して、トラブルのないシステムを納入できるようにしていく。

 さらに、MCS(マイクロソフトコンサルティングサービス)部門を現状の50名から150名に増員。1年後にはさらに倍増させ、300名体制とする。また、技術サポート部隊は現在の450名を600名に、SE(システムエンジニア)も100名に増員し、合わせて1年後には1,000名の陣容に成長させていく予定。パートナー各社とのアライアンスも強化して、「企業ユーザーが安心して利用できる環境づくりを行う」とした。

 最後に、「マイクロソフト製品は世界中で単一のコードであり、それがわれわれの強みのはずだったが、これまでは米国から発信された技術情報が日本に反映されるのが遅いなどの残念な事実もあった。それをもっと迅速化する。とくに重要なセキュリティに関しては、1日で日本語化して提供できるようにする」と約束した。

  ◇  ◇  ◇

 ドットネットエンタープライズサーバー部門のマイケル・リッセGMは、マイクロソフトのサーバー戦略を説明。この1年間に、まったく新しい5つの製品を含む12種類のサーバー製品を出荷するなど、まさにエンタープライズサーバーのための1年だったと述べた。

 リッセGMは、ドットネットのウェブサービスの対象となるユーザーを(1)カスタマー(2)パートナー(3)社員−の3つのセグメントに分け、これからはそれぞれのソリューションを構築するための“スピード”がとくに重要になると強調した。

 具体的なサーバー製品として、カスタマーセグメント向けではコンテンツマネジメントサーバー2001のデモンストレーションを展開。大リーグのシアトルマリナーズの広報担当者が、球場への先着2万人にイチローの首振り人形をプレゼントするイベントをウェブでプロモーションするというシナリオのデモである。球場に陣取った担当者がマリナーズのサイトにオーサーでログインすると、ウェブページの内容が手元で編集できるようになり、そこからイチロー人形の写真や会場周辺のファンのコメントなどを入力していく。ページを保存終了すると、自動的にワークフローが働き、管理者の承認を経て、稼働中のサイトに対して変更が即時に反映される。専門家でなくても簡単にウェブコンテンツを扱えるのが特徴となっている。

 パートナーセグメントでは、ビズトーク(BizTalk)サーバー2000が取り上げられ、英国政府やフォード、エアキャストなどの事例が紹介された。これは、組織内および組織間におけるビジネスプロセスの連携やウェブサービスの統合を実現するツール。中央三井信託銀行の事例では、eマーケットプレースにおけるネット決済やファクタリングを実現する新サービスをBizTalkサーバーで運営している。XMLベースのシステムだが、わずか3ヵ月間で構築できたという。

 また、新しい製品であるBizTalkサーバー for ロゼッタネットの紹介があり、XMLで欧州企業から米国企業に寄せられたオーダー情報が、米国企業のパートナーである日本企業に向けてロゼッタネット形式に変換してやり取りされ、日米の企業が共同で欧州からの案件に応じるといったデモが行われた。

 一方、社員セグメントに対しては、エクスチェンジ2000とシェアポイントポータルサーバー2001を取り上げ、すでにロータスノーツの3倍に当たる8,600万シートの実績があることを訴えた。

  ◇  ◇  ◇

 最後に登壇したのはデビッド・トレッドウェルGM。まず、コンピューティングスタイルの歴史的変遷に触れ、「1970年代はサーバー集中のメインフレーム時代で、いわゆるダム端末が使われていた。1980年代に入るとパソコンによるファイル共有の時代となり、クライアントがリッチ化する一方、サーバーは単なるデータの入れ場所となった。1990年代はHTMLによるインターネット時代で、サーバーが処理ロジックの中心となり、逆に簡単なシンクライアントがもてはやされた。そして2000年代だが、これはXML時代になる。サーバーとクライアントがバランスした適材適所のコンピューティングとなるだろう」と発言。ドットネット戦略を見据えて、XMLウェブサービスの開発に精力を集中してほしいと呼びかけた。

 ウェブサービスは、ドットネットで実現されるアプリケーションを構成するソフトウエア部品のようなもので、XML(エクステンシブル・マークアップ・ランゲージ)、SOAP(シンプル・オブジェクト・アクセス・プロトコル)、WSDL(ウェブサービス・ディスクリプション・ランゲージ)、UDDI(ユニバーサル・ディスクリプション・ディスカバリー&インテグレーション)といった技術が基盤となっている。

 トレッドウェルGMは、とくにUDDIの重要性に注目させ、小売り業者からの発注を卸売業者が処理するデモンストレーションを示した。卸売業者は発注を通常の取り引き業者に照会したが、そこでは在庫が不十分だったため、欠品を補うためにUDDIレジストリーサービスにアクセスし、新しい業者のプロファイルやサービス内容を確認。ウェブ上で入札を行って新しい業者を選定し、小売り業者との取り引きを完結させた。この間、小売り業者も発注状況の現状確認をウェブを介して行うことができる。これらのすべてのやり取りはSOAPを使って行われる。

 「UDDIはサービスの提供者と利用者をつなぐレジストリーサービス。まったく見知らぬもの同士がウェブ上でビジネスをすることは難しかったが、UDDIを利用すればネット上で公開されているサービスを探して利用することができるので、取り引きの幅が広がる」とトレッドウェルGM。将来的には、さまざまな用途に合わせたUDDIレジストリーサービスプロバイダーが多数出現することになるという。

 こうしたドットネットアプリケーションの開発ツールが「ビジュアルスタジオ・ドットネット」である。マイクロソフトの提供する開発ツールは、1980年代のパソコン黎明期のBASIC、ウィンドウズが登場した1990年代のGUI時代のビジュアルBASIC、1995年のインターネット時代のビジュアルスタジオ−と変遷を遂げ、2001年にXMLウェブサービスのためのビジュアルスタジオ・ドットネットが登場することになったとした。

 具体的な開発環境は、ドットネット・フレームワークとビジュアルスタジオ・ドットネットから構成される。CLR(コモン・ランゲージ・ランタイム)を利用すると、20種類以上のプログラミング言語が利用でき、既存のスキルやコードがムダにならない。ドットネット・フレームワークの利用によりシステムのパフォーマンスが3倍になったり、全体のコード量が70%削減されたりした実績もあるという。

 また、トレッドウェルGMはマイクロソフト自身が提供を予定しているXMLウェブサービスであるヘイルストーム(HailStorm)についても紹介した。これは同社のシングルログインの認証技術である「パスポート」を利用してアクセスするもので、myProfile、myAdress、myApplicationSettings、myDevices、myDocuments、myFavoriteWebSites、myLocation、myWallet、myNotifications、myCalender、myContacts、myInboxなどの基本的なサービスを含んでいる。

 これにより、企業は各顧客に最適化したサービスを迅速・安価に構築することが可能になるという。例えば、パスポートでログインする際にユーザー情報が吸い上げられるので、ウェブショッピングの際に住所、氏名やクレジットカードナンバーなどの面倒な入力で顧客にストレスを与えないですむ。また、myWalletの購入履歴情報を使って嗜好を解析して新しい商品の提案や推奨を行ったり、myCalenderの内容を参照して友人の誕生日プレゼントの購入を促すなどの的確なマーケティングが可能になる。さらには、パスポートによってどのデバイスからネットに入っているかを常にトラッキングできるので、ユーザーは相手がどこにいるかをまったく意識せずにメッセージコミュニケーションを図ることが可能。その時点でオンラインになっているデバイスに対して正確にメッセージが伝わるという。

 もちろん、ユーザーは個々のウェブサービスプロバイダーがアクセスするHailStormのサービスごとにアクセスレベルを設定できるので、プライバシーも守られるとした。

 マイクロソフトは、このHailStormをドットネットのプラットホームサービスの1つとして、2002年から市場導入する計画である。

 最後に、トレッドウェルGMは「マイクロソフト・ドットネットこそがXMLウェブサービスのための最適なプラットホームである」と述べて講演を締めくくった。