CCS特集第2部:ADME予測システム

創薬研究の新スタイル、参入相次ぎ高まる導入熱

 2001.11.30−新薬開発を効率化させる新しい技術として、候補化合物のADME(吸収・分布・代謝・排出)/毒性を予測・評価するソフトウエアへのニーズが急拡大している。1990年代半ばから後半にかけて大流行したコンビナトリアルケミストリー/ハイスループットスクリーニング(HTS)を利用する研究方法をフォローアップする意味合いがあり、ここへ来て新規参入も相次いで、CCS市場のなかでも目立った動きに発展しつつある。国内の製薬企業の関心も非常に高く、来年にかけて導入熱が一気に高まる兆しをみせている。

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 最近、新薬開発の過程で生体への吸収性を精密に調べようという戦略が広く採用されつつあり、創薬段階でインビトロ(ガラスの中で行われる生理試験)によるスクリーニングを行い、その後の前臨床および臨床段階でインビボ(生体内で行われる生理試験)でのトータルな吸収性を評価するやり方に注目が集まっている。

 というのは、例えばファイザーの例をあげると、開発の最終段階まで進んだ化合物も、40%はADME試験で落とされ、さらに11%が動物実験による毒性評価で失格になるという現実があるからだ。

 一方で、1990年代半ばから大流行した新しい創薬研究手法としてコンビナトリアルケミストリー/ハイスループットスクリーニング(HTS)がある。これは、広範囲の化学的空間を大量かつ高速に探索することで、新しい薬物候補化合物を短期間で見いだそうとする技術。まず、薬物分子の基本骨格に対して、一定のルールを当てはめてシステマチックに構造修飾を施し、化学的にバリエーションに富んだライブラリーを作成する。次に、実際の化合物をロボットを使って効率よく自動合成し、ロボットアッセイによるハイスループットでのスクリーニングを通して候補化合物を速やかに探索する。

 すでに有用な技術として定着し、あちらこちらで具体的な成果が着々とあがっているが、大量に合成してアッセイするだけにヒットの数も多い半面、ムダな合成やムダな実験が増える結果になるとの指摘もあった。

 そこで、ADME/毒性予測に重点を置く新しい研究開発戦略においては、まずインシリコ(コンピューター上で行われる仮想生理試験)でのADME予測を通してバーチャルスクリーニングを行い、良好な吸収性がある程度期待できる化合物群を集めたライブラリーを設計しておく。さらに、その後のインビトロでの実験データを利用して、その時点で残っている候補化合物のADME特性を予測し、インビボ試験に進む化合物をふるい分けていく。加えて、インビボ試験データを利用して、インシリコおよびインビトロでの予測モデルをさらに練り上げていくというシナリオである。

 つまり、インシリコ、インビトロ、インビボの全段階を通してADMEの予測と評価を実施し、新薬開発の確度を高めるとともに、研究開発期間とコストの短縮も図ろうという考え方である。

 現在、国内で入手できる主要なADME予測ソフトを別表にまとめた。インフォコムが販売している米シミュレーションズプラスの「GastroPlus」「QMPRPlus」、米シュレーディンガーの「QikProp」、住商エレクトロニクスが販売している米トライポスの「VOLSURF」、菱化システムが販売している米アクセルリスの「C2 ADME」、日本MDLインフォメーションシステムズが販売している独ライオンの「iDEA」、富士通が開発販売している「CAChe5.0」などがある。

 QMPRPlusは、化学構造をもとにADMEの各種特性を予測する。犬の腎臓のMDCK細胞を使った膜透過係数やブラッドブレインバリア(BBB)透過係数などを求めることができ、これらで得られた数値をGastroPlusに導入することでライブラリーデザインの際のインシリコ評価に役立てることもできる。

 GastroPlus自体は、ACATと呼ばれるヒト消化管での吸収モデルをベースにしており、pHによる吸収の変化や投与薬物製剤の物性が考慮できるなど、臨床開発に近い段階で薬物投与の有効性を高める目的での製剤設計にも役立つ機能を持っている。最新バージョンでは消化管と肝臓での代謝、トランスポーターによる担体介在輸送を考慮した吸収と薬物動態シミュレーションを行うことができるようになった。

 シュレーディンガーのQikPropは、どちらかというとバーチャルスクリーニングに特化したシステムで、1時間に約1万化合物の物性値を高速に算出することが可能。

 インフォコムでは、さらにADME試験受託機関である米アブソープションシステムズとも提携している。実際のヒトの組織を使ったアッシングチャンバー試験など、国内では難しいとされる試験も行うことができ、速くて安いと好評だという。

 アクセルリスのC2 ADMEは、創薬研究を幅広く網羅する統合型CCSのCerius2で利用できる新規モジュールで、バーチャルスクリーニングを大量に実施し、コンビケム/HTSを効率化する目的に絞り込んで開発された。スループットは、1時間に1万5,000−2万分子、高速ディスクリプターモードで同200万分子以上というもので、群を抜いた高速処理が特徴だ。親会社のファーマコピアが持つ実測データをもとに相関式を組み立てているので、精度も犠牲にはなっていないという。

 菱化システムでは、米サイテジックのデータマイニングシステムであるパイプラインパイロットをC2 ADMEと組み合わせて販売していく計画。このソフトは、必要なオブジェクトをマウスでドラッグ&ドロップし、それらを相互に結び合わせてフローチャートのようなパイプラインをつくるだけで、複雑なデータ解析のプロセスを簡単にモデル化できるという特徴がある。

 特定のデータベースやファイル、サードパーティーのパッケージソフト、ユーザープログラム、フィルタリングアルゴリズムなどをオブジェクトとして使用することが可能。これにより、例えばSDファイルのバーチャルライブラリーをC2 ADMEに読み込ませ、リピンスキーのルールでフィルタリングして、条件に合ったデータだけを抽出するという作業が一瞬にして行える。ケミカルコンピューティンググループ(CCG)の統合CCS開発・実行環境であるMOEを利用すれば、独自のディスクリプターを組み込むことも容易。

 米トライポスのVOLSURFも新しい製品で、創薬支援の統合システムSYBYLの最新モジュールとして提供が始まったばかり。ライブラリーデザインの精度を上げるために利用されるが、出来合いの相関式に当てはめて単純に予測するというよりも、ユーザーが自分のデータを用いて独自に予測システムを構築するためのツールとして役立つという。

 分子の三次元構造を、ADMEに関連した物理化学的性質や薬理機構と関連づけて扱い、腸管吸収やBBBなどの特性を正確に予測する。ただ、活性コンホメーションを三次元で重ね合わせるなどの時間のかかる処理は行わないため、スループットは向上している。ペルージャ大学のグルシアニ教授が開発したシステムだということが最大の売り物となるようだ。

 独ライオンのiDEAは、もともと米トレガバイオサイエンスが製品化したもので、シェーリングプラウとジェネンテック、スミスクライン−ビーチャム、パーク・デイビス、ジョンソン&ジョンソンなどの6社が参加したコンソーシアムでの実際の化合物データや臨床データをもとにして開発された。

 ライブラリーデザイン用のスループットの高い予測モードと、実際に測定したインビトロデータを入力して行う精密な予測モードがある。吸収された薬物の濃度や絶対量の時間変化、さらに肝臓での代謝特性などを求めることができる。

 日本MDLでは、インビトロ試験の標準プロトコルの提供など、欧米と同じ水準の技術サポートが提供できるように国内での事業体制を固めている。

 富士通のパソコン版CCSのCACheも、簡便ながらADME予測が可能である。スプレッドシート形式で大量の物性計算などを自動的に行うプロジェクトリーダーの機能を用い、リピンスキーのルールに則した予測ができるようなサンプルデータセットを提供している。

 これらの製品は、それぞれにユニークな特性を持っており、ユーザーは自分の研究の目的やターゲットに合わせてシステムを選択することが重要だろう。

ADME特性予測ソフトの一覧
製品名 国内販売 開発元 特徴 動作環境 販売価格
GastroPlus インフォコム 米シミュレーションズプラス 最近のADME予測ブームの走りとなったソフトで、ミシガン大学のアミドン教授と南カリフォルニア大学のボルガー教授らによって開発されたACATモデルをベースに予測を行う。薬物のphや粒径、密度による溶解と吸収の影響を考慮できる。最新版3.1では肝臓や消化管での代謝、たん白質トランスポーターの影響を加味できるようになった。 ウィンドウズ 年間使用料450万円から
QMPR Plus インフォコム 米シミュレーションズプラス 化学構造(2D/3D) から膜透過係数(ヒトとラット)、LogP、溶解度、拡散係数、BBB透過係数、MDCK膜透過係数などを予測。読み込んだ構造から約190の分子ディスクリプターを生成し、ニューラルネットワークと回帰計算を使って物性値を予測する。 ウィンドウズ 年間使用料400万円から
QikProp インフォコム 米シュレーディンガー エール大学のジョーゲンセン教授が開発したプログラムで、相関式をつくるためのディスクリプターに特徴がある。Caco-2細胞透過性など7種類の特性を予測できるが、どちらかというとユーザーが自前のデータセットを使って独自の相関式をつくり上げる使い方が適している。 UNIX、Linux、ウィンドウズ 約200万円
VOLSURF 住商エレクトロニクス 米トライポス この分野の第一人者である伊ペルージャ大学のガブリエレ・グルシアニ教授によって開発された。インシリコでのリード探索と構造最適化に役立つ。5つの特性予測と、関連した72種類のディスクリプターを計算する機能を持つ。予測に際しては、三次元の重ね合わせなどを行わないので高速処理が可能。 SGI 未定
C2ADME 菱化システム 米アクセルリス 化合物の二次元構造をもとに、ブラッドブレインバリア(BBB)透過性、小腸での吸収性、水への溶解度を予測する。1時間に1万5,000−2万分子、高速ディスクリプターモードで同200万分子以上のスループットを持ち、大量バーチャルライブラリーのスクリーニングに特化したデザインとなっている。 SGI 各特性予測モジュールが200万円、3種セットで500万円
iDEA 日本MDLインフォメーションシステムズ 独ライオンバイオサイエンス ライブラリーデザインと探索ADMEの両方のフェーズで役立つ。製薬会社のコンソーシアムによる実際の臨床データを反映して開発された。スマイル形式の二次元構造から一度に125化合物を評価。インビトロ試験データを入力することで、消化管での吸収や肝代謝を精密に予測できる。 サンのウェブサーバー上で動作、クライアントはブラウザーベース 5ユーザーで年間2,700万円(サーバーマシン込み)
CAChe5.0 富士通 富士通 CACheに内蔵されているプロジェクトリーダーのQSAR解析機能を利用し、リピンスキーの5つのルールに則した予測が可能。サンプルデータセットに基づく相関式が用意されており、手軽に利用できる。 ウィンドウズ、マッキントッシュ 210万円から(教育機関は60万円から)
(CCSnews調べ)