CCS特集:土井プロジェクトレポート第6回

完成に向けラストスパート、来年4月からの一般公開にもメド

 2001.11.30−経済産業省プロジェクトとして開発されてきた材料設計のための統合プラットホーム「OCTA」がほぼ完成に近づいた。年内には最終版のリリース準備を整える予定で、プロジェクトが終了する来年4月以降の一般公開または商用化に向けた動きにもめどがつきつつある。プロジェクトを率いる名古屋大学の土井正男教授は、「やってみたいと思った機能はすべて詰め込んだ。OCTAはさまざまな解析ソフトを有機的に結びつけることができる。いわばプログラム同士の出会いの場であり、プロジェクト後も成長・発展していくことを願っている」と話す。開発陣はいよいよラストスパートにかかっている。

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 「高機能材料設計プラットホームの開発」(通称・土井プロジェクト)は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から化学技術戦略推進機構(JCII)が委託を受けたかたちで実施されており、土井教授のもとに参加企業11社から派遣された研究員が集まって開発を行ってきた。

 OCTAは高分子材料の設計をターゲットにしており、粗視化分子動力学法ソフトCOGNAC(コニャック)のほか、レオロジーシミュレーターPASTA(パスタ、旧名称ReX)、動的平均場法ソフトSUSHI(スシ)、多相構造/分散構造シミュレーターMUFFIN(マフィン)−といった計算エンジンが用意されている。具体的なソフトがほとんど存在しなかったメソ領域の解析ソフト群を体系的に整備したことでも注目されるが、ポイントはむしろそれらの計算エンジンを統一的に扱うためのプラットホーム技術を確立できた点にある。

 土井教授は、「一般には、計算エンジンが違えばファイル形式やデータ構造も異なっており、それらが相互に連携するのは基本的に難しかった。また、単一のエンジンを使うだけなら出てくる数値がどんな単位でもかまわないが、そのエンジンの出力を理解して別のエンジンに計算を引き継ぐためには単位の変換ということが大きな障害になっていた」と説明する。

 OCTAのプラットホームモジュールであるGOURMET(グルメ)は、計算エンジンの違いを乗り越えるユニバーサルなファイル形式“UDF”を採用しており、基本的にどんなエンジンでもGOURMET上で動作させることができる。モデルを作成してエンジンを起動し、計算の途中で経過を表示させたり、計算を停止させたり、パラメーターを変更したりすることも可能になった。

 また、新たに単位変換機能を搭載した。例えば、COGNACで使用される時間や長さ質量などの単位を実際の物理量に変換して示すことができるようになった。「細かなようだが、これは非常に重要な点だ。扱う時間的・空間的スケールの異なる複数の計算エンジンを連携させて幅広い観点で材料設計を行う“シームレスズーミング”では、エンジン同士が情報をやり取りし合うとともに、それを使う人間にわかる物理量(単位)で出力を正確に理解できるようにする必要がある。その意味で、シームレスズーミングの基本になる機能だと思う」と土井教授。

 現在、システム全体のチューニングとテストが行われており、当初のバージョンではコマンドラインからの操作が多かったが、自由に編集可能なアクションメニュー機能により、ほとんどがマウス操作で行えるなど使い勝手の良さもさらに向上してきている。

 OCTAは、来年4月から一般公開される予定で、ホームページ(http://www.zoom.cse.nagoya-u.ac.jp/)からのダウンロードも可能になるようだ。また、商用化に関しては、プロジェクトメンバーでもある日本総合研究所が名乗りをあげている。

 土井教授は、今後もアカデミックな立場からOCTAの将来にかかわっていく考え。日本で開発された世界初の本格的な高分子設計のプラットホームとして、国際的な評価の高まりにも期待が持てる。