菱化システムが米イーオンの力場パラメーター開発ソフトを発売
分子軌道計算を利用してユーザー自身が作成可能
2001.12.19−菱化システムは、米イーオンテクノロジー(本社・カリフォルニア州、フアイ・サン社長)と総代理店契約を締結し、分子科学計算の精度を高めるための「ダイレクトフォースフィールド」(商品名)の販売を開始した。分子力場法/分子動力学法で利用する“力場パラメーター”をユーザー自身が簡単な操作で作成することができる。これまでは、特殊な分子の系では最適なパラメーターが用意されておらず、計算精度が犠牲になるという問題があった。こうした目的での使いやすいツールが製品化されるのは世界でも初めてだとしており、計算化学の専門家を対象に売り込んでいく。
イーオンテクノロジーは、旧バイオシム(現アクセルリス)で力場パラメーター開発を行っていた技術者が独立し、昨年9月に設立した企業。サン社長は、アクセルリス製品に内蔵されているCFF、PCFF、COMPASSなどの第2世代力場の開発において中心的な役割を果たしたという。菱化システムは、設立時からイーオンをバックアップしており、企業経営や開発方針、ライセンス体系などの検討、また製品の開発も手助けし、ベータ版の段階でのパラメーターセットのチェックなどの作業を担った。来年の春のACS(米国化学会)で両社共同による論文発表も行われる予定。
さて、分子力場法/分子動力学法などの経験的な分子計算法は、原子間の相互作用エネルギーを“力場”として表現してシミュレーションを実行する。一般に、パラメーターは実験値を再現するように決められる。代表的な官能基などの分子構造のパターンについてはほぼパラメーターがそろっているが、当然のことながらあらゆる原子の結合のパターンを用意しておくことはできない。パラメーターが存在しない場合は、類似した構造を探して代用パラメーターを当てはめることもできるが、そのために全体の計算精度が低下する問題があった。
例えば、コンビナトリアルケミストリーにおいて、基本骨格に対して構造修飾をする場合、置換基の方はパラメーターがそろっていても、基本骨格のコアの部分のパラメーターがないために、構造が精度よく最適化されないという場合もある。
しかし、ユーザーが自分でパラメーターをつくるのは、実験データを集めることからはじまって非常に手間のかかる作業であり、ほとんどのユーザーは精度の低いケースを容認したままプログラムを使用しているのが現状だったという。
「ダイレクトフォースフィールド」は、パラメーターに依存しない非経験的分子軌道法計算を利用し、その値を再現するようにパラメーターを決めていく。具体的には、決めたい分子構造に対して分子軌道法ソフトのGAUSSIANまたはGAMESSを走らせ、ヘッセン行列や一次微分、静電ポテンシャル、マリケンポピュレーション解析などの結果をもとに、分子動力学法で多用されるAMBER、CHARMM、CFF用の力場パラメーターを作成できる。
実験値ではなく分子軌道法の計算結果をもとに力場パラメーターを決める方法は、実際には以前から行われていたが、関数系への非常に複雑なカーブフィッティングなどが必要なため、それを簡単に行えるツールは存在しなかった。今回の製品化にあたっては、力場のポテンシャル関数を複雑なエネルギー面に効率よくフィットさせるアルゴリズムを開発できたことがポイントになっており、その技術は特許出願中である。
これにより、構造中の一部のパラメーターが不満足でできなかったたん白質全体の構造解析や、たん白質とリガンドとのドッキング計算などが高い精度で行えるようになるという。
ソフトウエアの価格は、年間使用権で250万円。3年契約は500万円、5年契約は750万円となっている。契約期間内の技術サポート、バージョンアップも含んでいる。