菱化システムが独コスモロジックの熱力学物性予測ソフト
化学工学/ADME特性評価に威力、MO計算結果を利用
2001.12.27−菱化システムは、独コスモロジック社(本社・レーバークーゼン、アンドレアス・クラムトCEO)と総代理店契約を締結し、非経験的分子軌道法(MO)を利用した熱力学物性予測ソフト「COSMOtherm」(コスモサーム)の販売を開始した。医薬品製造などの複雑なプロセスを対象とした化学工学計算、新薬の開発段階におけるADME(吸収・分布・代謝・排出)物性予測などの分野に適用できる。MO計算をこのように利用するシステムは初めて。菱化システムでは、親会社の三菱化学がすでに同ソフトを活用している実績を生かしながら売り込んでいく。
COSMOthermは、溶媒効果を考慮したMO計算を可能とする“COSMO法”を利用して、特定の分子の各種熱力学的物性を予測するための物理モデルを構築し、それに基づき物性推算を行うことができる。MO計算には、独カールスルーエ大学で開発された密度汎関数法(DFT)ソフト「TURBOMOLE」を使用する。これもコスモロジック社から販売・サポートが行われている。
主な用途は化学工学の分野で、純粋な理論計算の結果を利用するため、従来の原子団寄与法(GCM)などでパラメーターが存在しないために物性推算が行えないといった問題を避けることができる。具体的には、溶媒やポリマーへの溶解度のほか、蒸気圧、気化熱、蒸留係数、混合熱、反応生成熱、気液/液液/固液平衡、各種の相図作成などが行える。
例えば、三菱化学では昨年12月にCOSMOthermを導入し、医薬品製造における分離・精製プロセスなどで使用する適切な溶媒の検討で効果を出しているという。とくに、医薬で重要になる場合が多い固体溶解度の予測ができ、異なる溶媒や混合溶媒における解析が簡単に行える点で評価が高い。
時間のかかるMO計算の手間を省くために、1,150種類の主要な溶媒や化合物の計算結果をあらかじめデータベース化した「COSMObase」も用意されている。
一方、コスモロジック社が新しい用途として期待をかけているのがADME物性予測の分野。同様にTURBOMOLEの計算結果を利用して、水をはじめとする様々な溶媒への溶解度を解析できるほか、Caco2(ヒトの膜透過係数)、血液脳関門透過係数(ブラッドブレインバリア=BBB)、腸管吸収などのADME物性の予測が可能。やはり、MO計算を省略するためのデータベース「COSMOfrag」が提供される。約1万件の部分構造データを収録しており、これを利用すればADME特性評価をハイスループットで実施することも容易になる。
また、もともとMO計算の結果を使用しているため、対象の化合物に対する理論化学的な考察を組み合わせることにより、薬物として好ましいADME物性をより深いレベルで理解することにも役立ちそうだ。
ただ、COSMOthermはグラフィックではなくコマンド操作を中心としており、現時点では使い手を選ぶ専門家向きのシステムとなっている。菱化システムでは、自社で取り扱っている米アクセルリスや加CCGなどのグラフィックに優れたコンピューターケミストリーシステム(CCS)製品とのインターフェースを取ることも検討していく。
ソフトウエア価格は、永久ライセンスでCOSMOthermが450万円、COSMObaseが150万円、COSMOfragが450万円。年間25%の保守費用が必要になる。国内ユーザーの事情に適合したサイトライセンスなどの導入準備も進めている。