マイクロソフトコンファレンス2001/Fall:阿多親市社長基調講演

ドットネット先進ユーザー事例を紹介、パスポート認証相互乗り入れへ

 2001.11.09−マイクロソフトの阿多親市社長は6日、「マイクロソフトコンファレンス2001/Fall」において「.NETが始まる! ビジネスプロセス革命を加速するマイクロソフトエンタープライズソリューション」と題する基調講演を行い、ウィンドウズXPとドットネット(Microsoft .NET)が企業の情報システムを革新するビジョンを示した。阿多社長は「ドットネット実現に向けた製品と機能はすでに準備され提供も始まっている」と述べ、国内の先進的ユーザーの事例を紹介した。また、批判の声が高まっているウェブサービスの個人認証技術「パスポート」に関して、「マイクロソフト1社で認証を独占するつもりはない。銀行のATMのように他社の認証サービスと相互乗り入れできるようにしていく」と表明した。

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 講演の冒頭で、阿多社長はコードレッドやニムダなどマイクロソフト製品のセキュリティホールを攻撃するコンピューターウイルスが蔓延していることに言及し、10月4日にストラテジックテクノロジープロテクションプログラム(STPP)を開始し、過去最大の規模でマイクロソフトの社員とリソースを動員し、全世界レベルで対策を強化したと公表した。「セキュリティが十分に確保されなければ、インターネットを重要な社会基盤とするドットネットの時代は来ない。日本でもパートナーと協力しながら、数10億円をかけて取り組んでいく」と述べた。

 次いで、講演は本論へと移る。ドットネットは、XMLとインターネットをベースとする“ウェブサービス”を組み合わせてシステムを構築するコンピューター利用技術の新しいパラダイムで、プラットホームにまったく依存することなく、あらゆるシステム間のオープンな接続性を実現するもの。「全世界の企業と個人が自由に連携でき、組織や国の枠も越えて広がっていく。企業にとってビジネスチャンスは無限に拡大する」という。

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 ドットネットを構成する3つの基本要素が「クライアント」、「サーバー」、「サービス」。この「クライアント」を構成するのが新しいOS(基本ソフト)のウィンドウズXPである。「これからのマイクロソフトのOS戦略の技術的なベースになる製品で、統合された5,500名のチームによって開発された」。ブロードバンド時代の新しいワークスタイルを提供することができ、ウィンドウズ2000の安定性・信頼性が継承されているとした。阿多社長個人は1年8ヵ月前からウィンドウズ2000を業務用に使用しており、この間にOSをリブートしたのはウィンドウズXPのベータ版とRTC版をインストールした時の2回だけだという。パソコンの電源を落としたこともその時だけだと述べ、その安定性に胸を張った。

 そして、具体的にウィンドウズXP採用を決定した早期導入事例として協和醗酵工業のケースを紹介した。同社は全社で約6,000台のパソコンを利用しているが、6年前にウィンドウズ95の全社展開を終了させている。マシンの更新期にも当たり、同社ではあらためてシステム利用の課題を洗い出し、長期的視野に基づく導入計画を策定、その投資効果を財務データに基づいて評価できるように準備した。その結果、毎年2,000台ずつ更新する3ヶ年計画を採用した場合、2年で投資が回収できると判断、ウィンドウズXPプロフェッショナル版の全社展開を決めたという。阿多社長は、「XPの導入で現状の問題点がすべて解決できるとともに、投資が早期に回収できるだけでなく、2005年からは18億9,000万円の利益を生み出すとご評価いただいた」と喜んだ。

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 続いて、ドットネットを構成する「サーバー」製品群を採用して効果をあげているユーザー事例も取り上げた。

 社員のエンパワーメントに活用しているのはキリンビールの例。同社はロータスノーツ/ドミノを利用していたが、新しくシェアポイントポータルサーバーを導入することにより、ノーツで蓄積した情報資産を生かしながらナレッジマネジメントの有効活用を促進することに成功した。全社のファイル共有の仕組みがシンプルになり、操作性や管理性も向上したという。

 ビジネスパートナーとの統合を成功させた事例は横河電機。ビズトークサーバーとコマースサーバーを利用し、計測機器を中心にした5,000品目の製品情報を提供。アリバをベースとした取引先企業との受発注処理を効率化した。また、ロゼッタネットに対応して電子部品の電子カタログなどを提供しているシャープの事例も紹介された。

 顧客との連携の成功例は三菱重工業。同社は、航海中の船舶のエンジンを遠隔地から監視するサービス「ドクターディーセル」を実用化した。エンジンのログデータを衛星回線を使ってXMLで送信し、それを同社のビズトークサーバーで受信。その情報はSQLサーバーで即座に解析されて、メンテナンスのアドバイスなどを再びビズトークサーバーを介して船舶に送り返すという仕組みだ。三菱重工業の開発担当者へのインタビュービデオの中で、最初はJavaを利用することを検討したが、マルチプラットホームとは言いながら実際にはベンダーごとに違っている点があり、開発の生産性もビジュアルスタジオの方が高かったのでビズトークサーバーを選定したというコメントが流された。

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 ドットネットのサーバー製品群のロードマップとしては、2001年はウェブサービスが現実のものになる年、2002年はウェブサービスの環境の整備と改善が進む年だと位置づけている。2002年には開発コード名ウィッスラーと呼ばれている次期64ビットOS「ウィンドウズ・ドットネットサーバー64ビット」(Windows .NET Server 64-bit)が登場する。それとほぼ同時に、SQLサーバー2000エンタープライズエディション64ビットも市場投入する予定。ウィンドウズ・ドットネットサーバー64ビットの最大4テラバイトにおよぶ巨大メモリー空間をフル活用できる同社初の64ビットアプリケーションとして製品化される。現行の32ビット版のSQLサーバーと完全な互換性があり、データベースのファイルフォーマットやクライアントアプリケーションの一切の変更なしで利用することが可能という。

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 最後に、阿多社長はドットネットを構成する3番目の要素である「サービス」について触れ、同社が提供を計画している「ドットネット・マイサービス」(.NET My Services)を紹介した。これは、開発コード名ヘイルストーム(HailStorm)と呼ばれていたもので、XMLウェブサービスを構成するための基本的なコンポーネント群となっている。講演のなかでは、.NET Alerts、.NET ApplicatonSettings、.NET Calendar、.NET Categories、.NET Contacts、.NET Documents、.NET Devices、.NET FavoriteWebSites、.NET Inbox、.NET Lists、.NET Locations、.NET Presence、.NET Profile、.NET Walletといった14種類のコンポーネントがリストアップされた。

 細かなことだが、ヘイルストームと呼ばれていた時は、myProfile、myAdress、myApplicationSettings、myDevices、myDocuments、myFavoriteWebSites、myLocation、myWallet、myNotifications、myCalender、myContacts、myInboxの12種類だった。今回、「ドットネット・マイサービス」という正式名称が明らかにされたことになる。

 これらのサービスを利用する際には、マイクロソフトの認証技術「パスポート」を使用しており、ユーザーは「パスポート」に対応したすべてのウェブサービスをシングルログインで透過的に利用することができる。実際には、パソコンなどのインターネットに接続可能な機器を起動させた時点で自動的に「パスポート」認証が行われるので、ユーザーはどんなサービスを利用してもIDやパスワード、氏名や住所、クレジットカード番号などの入力を求められることはない。「その利便性は抜群。他社のユーザーがサイトに訪れてくれて、自分の商品に興味を持ってくれたとしても、そこで細々とした情報の入力を強要しては、せっかくのお客さんを逃がすことになってしまう。顧客情報を共有できれば、ビジネスチャンスは格段に広がる」と説明した。

 しかし、この「パスポート」は最近非難の的になっており、ライバルのサン・マイクロシステムズは賛同する35社を巻き込んで対抗する“リバティー・アライアンス・プロジェクト”を立ち上げている。サンの主張は、個人認証をマイクロソフト1社に独占させるべきではなく、また企業にとって大切な資産である顧客情報を他社に勝手に利用されては困るというものだ。

 講演のなかで阿多社長は、「パスポートに登録された情報は、マイクロソフトといえどもユーザーに無断ではその内容を参照したり編集したりできない。ユーザー本人の承認なしには誰も利用することができないようになっている。また、パスポートはすでに世界で2億人が登録しているが、マイクロソフト1社で世界中の人の認証を独占しようとは考えていない。ちょうど銀行のATMのように、他の認証サービスとの相互提携を可能にする準備も進めている」ことを明らかにした。