マイクロソフトが「.NET My Services」戦略を発表

プロバイダーから3段階の料金徴収、ユーザーには当面無償で提供

 2001.12.18−マイクロソフトは17日、次世代情報システムとして推進しているMicrosoft .NET(ドットネット)の基盤となるウェブサービス「.NET My Services」(ドットネット・マイサービス)の日本における事業戦略を発表した。来年の初めからソフトウエア開発キット(SDK)の無償提供を開始し、開発環境を含めて試験運用のための体制整備を進めていく。本格的なサービス開始は2003年からになる予定だが、今回国内における早期評価事業者としてジェイアール東日本情報システム、ジェイティービー、ニッセン、NTT東日本の4社が名乗りをあげた。

 今回発表したのは、個人認証サービスのパスポート(.NET Passport)を含む15種類の「ドットネット・マイサービス」。今回、個々のサービスの具体的内容も明らかになった。“.NET Alerts”はあらかじめ登録しておいたイベントに対する通知を、ユーザーがその時点でアクティブなデバイスで受け取れるというもの。“.NET ApplicationSettings”はツールバーやアイコンなどの設定情報を格納しておき、ユーザーが利用する任意のデバイスでその設定が自動的に反映できるようにする。“.NET Calender”はユーザーのすべてのスケジュール情報を一括管理して、仕事や家族などに関する予定をいつでも引き出せるようにする。“.NET Categories”は各サービスで横断的に利用できるユーザー独自の情報分類基準で、プロジェクト関連や同好会関連などの自由な設定が可能。“.NET Contacts”は仕事やプライベートでの連絡先情報を格納しておく住所録。“.NET Devices”は各サービスから参照することで、ユーザーが利用中のデバイスに合わせた最適な機能を提供できるようにする。“.NET Documents”はインターネット上のストレージエリアを提供する。“.NET FavoriteWebsites”は、ユーザーが設定したウェブサイトへのリンクをどのデバイスからでも簡単に取れるようにする。“.NET Inbox”は電子メールサービスを任意のデバイスから一元的に利用できる。“.NET Lists”はユーザーが任意のリストを作成して情報を格納することが可能。”.NET Location”はユーザーの所在情報を自由な区分で登録しておき、自分に連絡する方法を他者に知らせることができる。“.NET Presence”はユーザーのオンライン状態を知らせることにより、いつでも最適なデバイスに最適な状態でサービスを受けることを可能にする。“.NET Profile”はユーザーの氏名や住所などの個人情報を格納しておく。“.NET Wallet”はクレジットカード番号や引き落とし口座番号などの決済情報を登録しておくもので、ショッピングの利便性を大幅に高める。

 これらは、XMLベースのウェブサービスを構築し提供するうえで、基本的なサービスコンポーネントとして使用できる。例えば、今回ジェイティービーが公開したデモンストレーションでは、スキーツアーの予約において、ツアーの空き状況を確認する際に“.NET Calender”から自分のスケジュールを参照し、自分の予定を反映させてカスタマイズされた空き状況表を作成させることができた。さらには宅配サービスと連動させ、スキー道具の受け渡しと受け取りの日取りも“.NET Calender”をみながら行うことができた。また、スキーツアーを予約した人に対し、格安ツアーの紹介を“.NET Alerts”を使って行った。ニッセンが公開したデモでは、“.NET Profile”に合わせたおすすめ商品の提示、“.NET Alerts”によるタイムセールスの案内、また“.NET Contacts”で友人へのプレゼントを送るようにしたり、“.NET Calender”で予定を確認しながら配送日を指定したり、急に予定が変わった際に携帯電話から配送日の変更を指示したりするなどのサービス例が示された。

 こうしたウェブサービスのサービスプロバイダーは、ユーザーの承認に基づいてそれぞれのマイサービスの情報を使用して、カスタマイズされたインターネットサービスを提供していく。実際に、ユーザーが利用する際には、どのマイサービスをどのプロバイダーが利用したがっているのかのリストが提示されるので、ユーザーはそれをチェックして利用を承認することになる。サービス間を移動する際にも、それに関連して新たにマイサービスを利用したいプロバイダーがあらわれると、その都度承認リストがポップアップすることになる。

 個人情報保護とセキュリティを高めるうえでの工夫だと思われるが、いちいち承認を求められるのは、デモを見ているかぎりではかなり煩わしい感じだ。また、結局のところは承認しなければ高度なサービスを受けられないわけで、やや詭弁的でもある。このあたりは、実際のサービス開始時には見直される可能性もあるだろう。

 さて、プロバイダーは、マイサービスの使用量に応じてマイクロソフトに料金を支払うことになる。これは、SLA(サービスレベルアグリーメント)と呼ばれ、“エントリー”、“スタンダード”、“コマーシャル”の3段階に設定されている。最小のエントリーレベルは、事業部門レベルのアプリケーションが提供される場合で、年間1,000ドルの基本料金とアプリケーションごとに250ドルがかかる。スタンダードは、企業全体に採用されるなどの本格的なビジネスアプリケーション向けで、年間1万ドルとアプリケーションごとに1,500ドルとなっている。コマーシャルは、個別契約によって金額が設定され、より高度なサービスレベルやサービスに対応しているという。国内でも、ほぼこれを円換算した形で料金設定がなされる模様だ。

 エンドユーザーに対しては、基本的なマイサービスのコンポーネントは無償で提供する予定。パスポートも引き続き無償であり、“.NET Documents”のストレージが一定サイズを越えた場合を除き、今回の15種類のサービスは当初はほぼ無償になると考えられる。ただ、マイクロソフトは今後のMSNやオフィスソフトにマイサービス対応機能を組み込む予定で、それらの将来のサービスに関しては利用料金が発生する可能性があるという。

 マイクロソフトの青写真としては、来年早々に正式なSDKを提供し、年央にはVisualStudio .NET(ビジュアルスタジオ・ドットネット)を使った開発に着手してもらい、インターネット上でのテストを経て、2003年からは本格的なサービスが開始されることを目指している。

 記者会見の後に開催された「ドットネット・デベロッパーズコンファレンス」では、IBMやサン・マイクロシステムズ、オラクルなどの他社が提示しているウェブサービス体系との比較が取り上げられ、阿多親市社長は「マイクロソフトはウェブサービスを構成する全部の要素を提供できるだけでなく、開発環境も優れている。ウェブサービス化を果たすために、ドットネット・フレームワークなら1行を加えればすむところが、Javaで書くと72行もかかる。また、複数の開発言語をサポートでき、とくに稼働中の業務ソフトの70%を占めるといわれるCOBOLを利用することが可能。COBOLのエンジニアは300万人もいる。さらに、携帯端末からパソコンまで、同じプログラミングモデル、同じ開発環境が利用できるのもドットネットだけだ」と述べた。次いで、パフォーマンスのスケーラビリティの高さを示した。サン自身のベンチマークコードを使って、Javaを大幅に上回る性能を叩き出したという。多数のユーザーをサポートできるスケーラビリティの高さが証明されたとした。

 開発者支援策としては、来年1月から教育トレーニングのパートナー各社がドットネットの開発と設計のためのカリキュラムを提供する用意を整えている。また、MSDNでC#の無償のトレーニングコースもスタートさせる。合わせて、ウェブサービスの開発コンテストを来年3月まで募集する。賞金2万5,000ドルを出して優秀作品を表彰し、開発者の関心を高めていく作戦である。