日本IBMがDiscoveryLinkをエーザイに導入

国内初ユーザー、分散した研究用DB群を統合化

 2002.03.06−日本IBMは、研究用の化合物情報や活性試験などの実験データを収めた複数のデータベース(DB)を統合するシステムをエーザイに導入した。これは、ライフサイエンス分野向けにIBMが開発し、昨年5月に製品化した「DiscoveryLink」(ディスカバリーリンク)を基盤としたもので、海外ではアベンティスなどの大手製薬メーカーが導入しているが、国内での実績は今回が初めて。既存のDBを変更することなく、複数のDB群を束ねて扱うことができるので、研究データの散在を防ぎ、データ量の増大にも柔軟に対応できる。同社では、DiscoveryLinkを戦略的な武器として位置づけ、ライフサイエンス向けソリューション事業をさらに強化していく。

 今回、エーザイが導入したシステムは、昨年の初めから基本設計を進め、9月から開発に入っていたもの。一部構築中の部分を除いて、今年から実際の運用を行っている。システム名は「R2D2」と呼ばれている。

 従来は、研究データをプロジェクト単位で蓄積していたが、そのプロジェクトが終了するとデータの所在がわからなくなることも多く、過去の研究資産を有効に活用することが難しかった。これらの各種データが分散・散在したまま統合化を実現できることが、DiscoveryLinkを採用した決め手になったという。

 このDiscoveryLinkは、IBMのリレーショナルデータベース管理システム(RDBMS)である「DB2ユニバーサルデータベース」のミドルウエア拡張機能の一つ。“ラッパー”(Wrapper)と呼ばれる一種の翻訳プログラムを介して、他のRDBMSで管理されているデータへの透過的なアクセスを実現する。オラクルやサイベース、マイクロソフトのSQLサーバーなどに対してそれぞれ働くラッパーが用意されているほか、XMLベースの汎用ラッパーも開発されている。実際のプロジェクトにおいては、新たなラッパーが必要な場合は日本IBMの方で作成して提供することも行う。

 現在、化学情報管理などのDBアプリケーション、化合物情報や反応情報などのDBコンテンツにおいて、IBMのDB2専用に提供されているものはなく、ほとんどの製品はオラクル用となっている。その意味でも、オラクル用のDBをDB2から自由に利用できるようにするDiscoveryLinkは、戦略的に非常に重要な位置にあるといえるだろう。

 複数のDBを束ねる技術としては“データウェアハウス”もあるが、これは個々のDBから抽出したデータを集積したメタDBを別途設けて、それに対して検索をかけるというもの。IBMでは、研究がハイスループット化してデータ量が日々増大するライフサイエンス分野には、分散したDBに対してラッパーでインターフェースを取るDiscoveryLinkの方が適しているとしている。

 また、医薬品産業は世界的な再編の時代を迎えており、アベンティスの導入事例でも合併前のそれぞれのDBを変更することなく、研究資産の速やかな一元化を実現できることが評価されたということだ。

 今回のエーザイの導入例では、米MDLの統合化学情報管理システム「ISIS」、米アクセルリスのハイスループットスクリーニング(HTS)データ管理システム「RS3」、MDLの生物学的アッセイデータ管理システム「アッセイエクスプローラー」、さらに研究プロジェクトデータ管理としてエクセルやファイルメーカープロなどのパソコンソフトで作成された各種のファイルも含め、すべての情報をDiscoveryLinkで束ねている。1回の検索で全部のDBを横断的に検索することが可能。個々のDBシステムは一切変更しておらず、新たにDB2上にインデックスDBを構築しただけ。これは雑多なプロジェクトファイルのなかにどんな情報が含まれるかを整理したものとなっている。

 ハードウエアでは、DB2およびDiscoveryLinkを稼働させるためのeサーバー620を新規導入した。ISISなどのシステムはサンのソラリス上で稼働しており、以前のままの分散システム環境を柔軟に生かしたシステム構成となっている。