菱化システムが統合分子設計支援システムMOEの最新版を発売

並列処理に対応、ターゲットたん白質のモデリングから薬物設計まで一貫

 2002.07.02−菱化システムは、加ケミカルコンピューティンググループ(CCG)が開発した統合分子設計支援システムの最新版「MOE2002.03」(商品名)の販売を開始した。並列処理への対応で高速化が図られたことに加え、たん白質のモデリングから薬物設計までの機能を強化し、新薬開発の幅広い研究プロセスを総合的にカバーできるようになった。また、専用のプログラミング言語である“SVL”を使ってカスタマイズや機能拡張が簡単に行えるという特徴もあり、同社ではSVLトレーニングコースを定期的に開催して普及に務めていく。

 MOE最新版の最大の特徴は並列処理への対応。並列モデルとしてはハイパーキューブ型のトポロジーを採用しているが、PVM(パラレルバーチャルマシン)やMPI(メッセージパッシングインターフェース)などのローレベルのメッセージパッシングライブラリーを利用したものとは異なり、開発者はサブルーチンをコールする感覚で並列命令を書き加えていくことができる。MOEが導入されているマシンに複数の処理を効率良く割り振ることが可能。

 菱化システムのベンチマークによると、配座発生処理で2プロセッサー時を1とした場合、4プロセッサーで2.31倍、6プロセッサーで3.85倍という結果が出た。MOEが導入されていれば、機種やOS(基本ソフト)を選ばないのも特徴だといえる。

 今回の並列化を生かした新機能がハイスループットでの配座解析機能。ファーマコフォアサーチ、リガンドとレセプターのドッキング解析、三次元フィンガープリント法、三次元コンビナトリアルライブラリーデザインなどに役立つ。

 また、たん白質を対象にした機能では、FASTA法を採用した高速ホモロジー検索、独自のロータマー探索とミューテーション機能などが追加されている。

 MOEは、CCG独自のプログラミング言語であるSVL(サイエンティフィック・ベクター・ランゲージ)で開発されており、今回の新機能もすべてSVLソースコードで提供される。ライセンスはトークン方式で、同時に使用可能なトークン内であればどの機能も自由に利用することができる。保守ユーザーであれば、新機能が追加されても新たな費用は一切発生しない。

 SVLは、プログラミング言語とマクロ言語、GUI構築ツールの機能を兼ね備えた開発環境でもあるため、SVLが理解できれば、自分に使いやすくカスタマイズしたり、新しい機能を組み込んだりすることが簡単に行える。言語体系はシンプルで、コンピューターケミストリー用途においては非常に高い開発効率を示す。覚えておいても損のない言語だという。

 菱化システム自身でもSVLを利用してMOEの機能強化を行っており、これまでに分子動力学法の計算エンジンであるAMBER(カリフォルニア大学)や、力場パラメーター作成ツールのダイレクトフォースフィールド(イーオンテクノロジー社)、ADME特性予測ツールCOSMOtherm(コスモロジック社)などの他社製品をMOEに統合した。また、遺伝的アルゴリズムを採用したQSAR(構造活性相関)解析、MOEの活性部位探索機能を利用した高速ドッキングシミュレーションなどの独自アプリケーションの開発も手がけてきている。

 基本的には、CCG側での開発ロードマップにあがっていない機能で、国内のユーザーに要望の多いものを選んで開発を進めているという。CCG社が使用している開発環境がそっくりMOEに含まれており、SVL自体が他人の書いたプログラムでも読みやすいのが特徴なので、既存のアプリケーションのソースをそのままテンプレートに利用できるという利 点がある。コンピューターケミストリーに限れば、一般的なC言語の10分の1程度のライン数でアルゴリズムを記述できるという。菱化システムでは、これまで実施してきたトレーニングコースに加えて、SVLを修得するための「SVL基礎コース」を8月から定期的に開催していく予定。SVLを普及・浸透させることで、MOE自体の付加価値をさらに向上させていく。