マイクロソフト「Tech・Ed 2002」ブルース・バーンズ氏基調講演

現実解となるドットネット、相互接続性がカギ

 2002.07.05−マイクロソフトは、7月3日から5日までの3日間、パシフィコ横浜でデベロッパーズコンファレンス「Tech・Ed 2002」を開催し、XMLウェブサービスを具現化できる“ドットネット”(Microsoft .NET)でアプリケーション開発を行うように国内の開発者に対して訴えかけた。VisualStudio .NET(ビジュアルスタジオ・ドットネット)による開発環境がすでに整っており、参加者に対しては次期サーバーOS(基本ソフト)であるWindows .NET Server(ウィンドウズ・ドットネットサーバー)のベータ版が配布されるなど、ドットネットを取り巻くムードはいよいよ盛り上がりをみせつつある。基調講演に登場したブルース・バーンズ氏(ドットネットプラットホーム戦略担当取締役)はウェブサービスの重要性を力説。マイクロソフトのウェブサービス規格の第2版に当たる「GXA」(グローバルXMLウェブサービスアーキテクチャー)についても説明した。

   ◇  ◇  ◇

 「現実解となるドットネット」と題した基調講演の中でバーンズ氏は“接続”というキーワードを何度も強調した。「社員、顧客、パートナーとの接続を実現するためには、それぞれが持っているアプリケーション同士がつながる必要がある。かつてのDOSの時代にはアプリケーションはスタンドアロンで、情報をやり取りするにはメモに書いて再入力することが必要だった。ウィンドウズが登場して複数のアプリケーションを組み合わせて使うことができるようになり、個人の生産性は大幅に向上した。しかし、ウェブ時代になるとまた以前に逆戻りとなり、1回に利用できるのは単一のサイトだけで、何度も同じことを再入力させられるようになってしまった」と述べた。

 「われわれは1999年にウェブサービス革命を主張したが、当時はドットコムバブルがはじけた直後でほとんど注目されなかった。ところが、2000年になってIBMが追随し、いまやウェブサービスにコミットしていないベンダーを探すのは難しいほど。XMLウェブサービスへの流れはもはや確実であり、開発者のみなさんも安心してこの流れに乗っていただいてかまわない」とした。業界120社が加盟している推進団体「WS-I」の調査として、90%の開発者が2003年までにウェブサービスを構築する計画を持っており、またすでに開発経験のある人の97%がそれによって新しいビジネス機会をつかんだという情報を紹介した。

 基調講演の中では、このあとに沖電気工業の川上英・金融ソリューション開発本部長らが登壇し、複数のウェブサービスを相互接続して協調させるデモンストレーションを実施。旅行サービス業者のポータルサイトに入って、おすすめの旅行商品を選び、ホテルや航空券、レンタカーの予約をし、すべてをオンラインで決済するというシナリオである。この時、ポータルとレンタカー予約サイトはドットネットのアプリケーションフレームワークで、ホテル予約と決済サービスのサイトはBEAのウェブロジックで、航空券予約サイトはHPのアプリケーションサーバーで開発運用されている。接続と連携はXMLウェブサービスで行われており、川上本部長は「ベンダーの違いを乗り越えてサービスを接続・統合できるのが最大の特徴だ」と強調した。

 基調講演の後半では再度バーンズ氏が登場し、ドットネットをめぐるマイクロソフトの取り組みを紹介。「ドットネットはビジョンであるとともにソフトウエアであり、プラットホームでもある。“接続”することがその最大の価値だ。社内・社外のシステムを結ぶだけでなく、ビジネスも結ぶ。ビジネスが顧客・社員・パートナーの三者とより深く結ばれることで企業に活力を生み出す。また、個人のエクスペリエンスも結ぶ。いつでもどこでもどんなデバイスでもリッチな体験を提供できる。また、ドットネットは開発者も結ぶ。言語やプラットホーム、デバイスの違いを乗り越えて相互運用可能なソリューションを迅速に構築できるようにする」と述べた。

 具体的な開発環境がVisualStudio .NETで、すでに200を超える統合ツールとパートナーが出てきており、関連書物も世界で275冊(日本では40冊)が出版されている。ライセンス出荷本数は全世界で100万を超えたということだ。

 サーバーOSとしては、現時点ではWindows2000が利用できるが、次期のWindows .NET Serverが控えている。バーンズ氏は「5ナインを超える稼働率を実現できる信頼性、32プロセッサーをサポートできるスケーラビリティ、そしてセキュリティに万全を期す」と説明した。

 最後に、バーンズ氏はウェブサービスの今後の取り組みについて論じた。とくに、マイクロソフトがウェブサービス2.0として開発中の「GXA」(グローバルXMLウェブサービスアーキテクチャー)について明らかにした。「GXAはメッセージベースのアーキテクチャーで、メッセージがメッセージ経路を行き交う仕組みだ。URLで記述されたエンドポイントへメッセージが送付されるが、エンドポイントは中継点になることもでき、中継点はSOAPヘッダーに基づいてさらに先のエンドポイントに転送していく。必要なモジュールだけを組み合わせて構築できるのが特徴で、B2BやB2C、EAIソリューション、P2Pにも対応できる汎用性がある。また、中央集権的なサーバーの存在や管理を必要としない」という。

 「また、今年の4月にIBMやベリサインと共同でウェブサービスの新たなセキュリティ技術を開発した。プラットホームや言語から独立した基盤技術で、マイクロソフトが独自に実装したものを“トラストブリッジ”と呼んでいる。トラストブリッジはネットワークの境界に配置され、認証と承認を通して組織を超えたセキュリティの共有を可能とする。ケルベロスなどのセキュリティフォーマットを利用して、アクティブディレクトリーやドットネットパスポートにセキュアにアクセスできる。これにより、互いの信頼関係が接続され、相互の協調が可能になる」と解説した。

 バーンズ氏は、ウェブサービスのビジョンとその実現性でマイクロソフトが他のベンダーをリードしていることをあらためて強調し、会場内の開発者に向かって、それぞれが抱えているビジネスをウェブサービスで概念化するとともに、既存資産をウェブサービスとしてラッピングして公開すること、ウェブサービス開発のスキルとトレーニングに投資すること、そしてウェブサービス構築のプロジェクトを早期に立ち上げてほしいと訴えた。合わせて、ベストの開発環境であるVisualStudio .NETの採用を急ぐこと、推進団体のWS-Iへの参加も要請して講演を終えた。